ShortStory
Love at first sight
〜side-S〜
あれはいつだっただろう?夏の暑い日だった。
ほんの些細なことだった。僕が放ったボールが、珍しくフェンスを超えていったんだ。
コロコロと転がるボールを追いかけて、きみの足元に辿りついたとき。
顔をあげた笑顔のきみに、僕の心は囚われたんだ……。
「ねー不二〜!なんで俺が手伝わなきゃいけないんだよっ!」
「なにも委員会入ってないんだから、文句言わないの」
部活も引退して、卒業まであと半年って頃。
放課後、僕は英二を連れて委員会が集まった教室で、卒業アルバムに収める写真を選んでるところだった。
何枚もある写真を一枚一枚吟味してるところで、各クラスの委員で手分けして作業してる。
こういうのは一人でも多いほうがいいに決まってる。英二は委員会入ってないんだから、こういう風になるの分かってたハズなのにね。
「ちぇー!一年間暇できるって思ってたのにさぁ!不二、あとでジュースおごってよね」
「生徒会長の手塚が聞いたら怒りそうなセリフだね」
「この委員会、たまに手塚もくるから嫌だったんだよなぁ〜。ん、言ったそばから手塚の写真だ!」
「あ、そうだね。これ、スピーチのときじゃない?生徒会選挙の」
「なんか初々しくない?」
「去年のだしね。なんか若い」
「ふはは!手塚に言ったろ!」
同じく他のクラスの委員が、どっと笑って英二に手塚の写真を渡し始めた。
それを一枚一枚、英二はツッコミながら吟味してる。やっぱり英二連れてきて正解だったな。
「はい、菊丸君。これ、菊丸君写ってるよ?」
「おっ!サンキュー相葉ちゃん!」
「あれ、英二。相葉さんと知り合いだったの?」
「え?あぁ、うん。去年同じクラス。なっ!」
「あ、う、うん。そうなの!」
「それはそれは。英二のお守り大変だったでしょ?」
「なんだよ、不二。クラスのお荷物みたいな言いかたしてっ!」
「お荷物ではないけど、僕はお世話してるつもりだよ?」
「むきー!事実だから言い返せない!」
「アハハ!そんなこと全然なかったよ?」
綺麗に笑うきみをみて、僕の心はぎゅっと締めつけられそうになる。
そう、この笑顔が僕の心の起爆剤。
相葉さんは五組の同じ委員会。初めてきみを知ったのは去年。もう正確な日は思い出せない。ただ、夏だったのだけは覚えてる。
今年の春、同じ委員会だったことに心の中で慣れないガッツポーズをした。
去年、英二と同じクラスだったなら知っていてもおかしくなかったのにな。
「ふ、不二君とこうやって話すの初めて……だよね?」
「あ、そうだね。なかなか話す機会って生まれないもんだよね」
「不二はねー結構みんな近寄りがたくて話すのためらう人多いんだよ〜。こんなにフレンドリーなのにさー」
「近寄りがたいってなにさ」
「オーラだよオーラ!たまにあんじゃん。話しかけるなオーラ」
「……あぁ、あるかも」
「え?あ、あるの?見たことないかも」
「……ん?相葉ちゃん、いつも不二を見てるみたいなこと言うじゃん?」
机の上で写真を探す手が止まる。
おそらく英二は無意識。たまにあるんだ。確信をせまるようなことサラッと言うこと。
相葉さんも同じく手が止まってる。顔は俯いててその表情は分からない。
けど。サラサラと落ちる髪の毛の間から、耳が赤くなってるのが見えた。
「おーい、相葉ちゃん?」
「……ッ、ごめん!あたしちょっとトイレ!」
「お、おう。いってらー」
「…………ごめん、英二。僕も行ってくるね」
「へっ?!不二も?!!」
相葉さんが教室をあわてて出る。僕もそれを追いかけるようにして教室を出た。
さっきのあの反応。僕に興味がなければ、あんな反応しないはず。
期待していい、のかな?僕のこの淡い恋心に。
きみを想うこと、止めたくはないんだ……。
「おー行っちゃったねぇ、相葉ちゃんと不二君」
「菊丸君、お手柄じゃん!」
「はい?どゆこと?」
「相葉ちゃん、気付かなかった?」
「は?」
「不二君のこと、ずっと好きだったんだよ?」
走り抜ける廊下、きみの後ろ姿を見つけた。揺れる真っ直ぐな黒髪がすごく綺麗で。
帰宅部って誰かから聞いてたけど、足が早い。もったいないなぁ。
「相葉さん、待って!」
「……ッ、不二、君……」
その姿に追いついて、肩に手を置いた。
ゆるりと止まった相葉さんの足は、まだ向こうを向いたまま。いつでも走り出しそうで。
このまま手放したくないから、その肩に置いた手を相葉さんの手に握りかえる。
ピクリ、と小さく反応があって、ますます僕の気持ちは昂ってくる。
「なんで……逃げたの?」
「べ、別に逃げてなんか……」
「じゃあ英二のセリフの続き。僕のこと……見ていたの?」
「そ、それは……」
「見てなかった?教えて?」
「………………み、みてた」
体半分が僕のほうを向いて、きみの真っ赤な顔がようやく確認できた。耳まで真っ赤になっていて、その顔に僕の心臓はより一層高鳴る。
僕はきみのその口から、確信的な言葉を待っている。聞きたいんだ、その声をこの耳で。
「どうして?」
「……い、言えない」
「僕のこと見てたのに、その僕には理由を言えないの?もしかして嫌われてたとか?」
「そ!そんなことあるわけ……あ、」
「どんなことならあるのかな?」
「……ッ!も、許、して……」
許さないよ。許すわけがない。だってここで許したら、きみは僕からすり抜けて行ってしまうだろ?
きみのその焦がれた面持ちに、僕はこれ以上振り回されたくない。
はっきり、させよう?きみの気持ちと僕の気持ち。その答え合わせを。
「言ってくれたら許してあげる」
「……!!」
「お願い。聞かせて?雫……」
「あっ、う……」
「僕のこと、どう思ってる、の?」
あまりにも恥ずかしいのか、雫は顔を俯かせてどう言葉を紡ごうか悩んでるようだ。
繋いだ手をそのままに、その細く長い落ちる黒髪へ手をのばす。耳に髪をかけて見えた顔は、今にも僕を翻弄させる女の子の顔だ。
僕はずるい。ここまできて、僕からはその想いを伝えずにいる。
きみのその顔を見ていたいから。僕だけに向けられたその顔ばせを、独り占めしたいんだ。
耳元まで顔を近づけた。それだけで雫の身体は反応して大きく揺れる。
僕を煽るその反応に、小さい声で呟いた。
「教えてくれないと、ずっとこのままだよ?」
To be continued...- 7 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*