ShortStory

Love at first sight



〜side-H〜


ずっとずっと好きだった。
あの日、テニスボールを拾った日。初めて触れたあの日。
あたしの心にはあなたが住み着いた。
名前だけは知ってたけど。まさかこんなにも綺麗で心奪われるとは思わなかった。





「教えてくれないと、ずっとこのままだよ?」


本当はもう逃げられないと確信してる。
でも、この想いを吐き出していいものか悩んでた。
あたしなんかが、あなたに想いを告げていいのかって思ってた。告げないほうがいいんじゃないかって。

世の中には、あなたにお似合いの女の子……いっぱいいるもの。

でも。でも、不二君は。
あたしのことを名前で呼び、あたしの今の気持ちをこれでもかと吐き出させようとする。その言動にあたしは自惚れてしまう。

不二君も、あたしのことを好きなんじゃ……って。

神様。あたしは似合わないのに、不釣り合いだと理解してるのに。
でもこの気持ちに。あなたに恋焦がれるこの痛いくらいの想いに、諦めがつけられない。
今年は少しでも近づけたらと、不二君がこの委員会に入ることを人伝に聞いて入ったんだ。

なら、いっそのこと。
想いを告げて、振られたほうがいい。


「……あ、たし。不二君に……こんなことされたら自惚れちゃう」
「うん」
「不二君の隣には、もっと相応しい人いっぱいいるのに……あたしなんかが……」
「僕の隣にいて欲しい人は僕自身が決めるけど?」
「だ、だったら……あたしは不釣り合い、だよ」
「それで雫はいいの?」


少し見上げた不二君の顔は、とても挑戦的な表情で。口角が少し上にあがっていて、なにか確然たる自信があるみたいで。
テニスコートの不二君みたいだった。目が離せない。引き込まれる。胸が熱くなるくらいに。


「どんなことでも応えるから。教えて」


言ってしまいたい。早くこの気持ちから解放されたい。
振られたほうがいいなんて、本当は思ってない。
本当は、あなたのモノになりたい。


「……あ、たし。不二君が……」
「うん。僕が?」
「す……ッ、き……なの」
「ん?」
「好き、なの。ずっと、前から。夏のあの日、テニスボールを拾った日から。ずっとずっと……あなたのことが、す……ひゃっ!」


好き、と言おうとしたときには、その言葉は空を舞って不二君の胸の中に消えていった。
強く強く、抱きしめられて身動きがとれない。不二君の温もりと匂いがあたしを包む。


「……よく、できました。僕も雫が好きだよ。雫と出会ったあの日。テニスボールを拾ってくれた日から、ずっときみを目で追ってた」
「……え?」
「でも、ごめん。僕はずるい。雫から言わせた。もし、違ってたらどうしようって。今日のきみの反応が、ただの勘違いだったらって怖かったんだ」
「……あたしだって……不二君の隣にいたかった。でも、自信なかった。あたしなんかが隣にいるべきじゃないって、思ってた……」


不二君の緩んだ右腕が、そのまま壁にもたれかかる。
あたしは壁を背中にして、不二君を見上げる。
顔が今更になって熱いと気づく。多分、耳まで熱がこもってる。
涙が出そう。でも、耐えた。こんな一瞬を涙で前が見えなくなったらもったいないから。

不二君の左手があたしの頬をなでる。優しく、まるで壊れ物に触れるかのよう。
近づく顔はとても綺麗で。琥珀色の髪の毛が、あたしの目元を隠した。
目を閉じて、不二君に委ねる。
ゆっくりと、優しい……甘い匂いが鼻を掠めた――……。


「すき。ずっと好き。あたし、不二君が好き……」
「うん、僕も。雫が好き。離したくない」


見つめあって、今度は深く長いキスをした。
まるでここだけ時間が止まったように。










「あ、帰っちゃった。みんな」


申し訳ない気持ちで委員会で集まった教室に帰ると、すでにもぬけの殻で机の上には整頓された写真が並べられている状態だった。


「英二、怒ってるだろうな。サボったから」
「菊丸君って怒るの?」
「怒るよ?僕にはあんまり怒らないけど」
「矛盾してない?」
「倍になって返ってくるの分かってるからね。本気で怒る以外は怒らないかな」


手なずけられるなぁ……なんて思いながら写真が並ばれてる机に向かう。整頓までされてたら、もうすることの無い仕事。
そこに、一枚だけ別にされた写真があった。なんだか付箋まで貼られてるソレを手にとると……。


「英二の字だ。…………ふ、分かってるね。さすが英二」
「あ、この写真……やだ。撮られてたんだ」
「いい写真。もらっちゃおうかな」
「え!待って。ダメ!恥ずかしい!」
「僕、一枚も雫の写真持ってないから。これはもらってく」
「やー!ダメダメ!」
「こんな可愛い顔してる写真、他の人に見せたくないんだよ」
「…………ッ!も、もう!」


そこにはあたしが前にいる不二君を、後ろから見つめてるところを撮られてる写真。
菊丸君から「明日、お昼に購買のパンとジュースで手をうってやる!感謝してよね!」と記されていて、その下にはおめでとう、と一言書き添えられていた。


「さて、帰ろうか」
「……一緒に?」
「もちろん。だって僕は雫の彼氏だよ?」


その響きに耳がくすぐったくなる。
写真を大事そうにしまって、手を繋いだ。
その温もりに、夢じゃないんだって実感する。


ずっとあの日から夢みた光景。
これからもっと――あなたと一緒に。

同じ景色を見ていたいから。
写真に収めるように、ずっと…………。










Love at first sight
(あ、雫)(ん?)(まだ一個叶ってない)(なにが?)(僕のこと、名前で呼んで?)(……!)(呼んでくれないと僕、なにするか分からないよ?)
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