世界で一人はアナタだけ

「ごめんなさい」
「あ、ゆたさるんやん。だからよやー。彼氏ぐれーうぅんさぁやー……」
「……えっと……」
「あ、そうが。いいんだ、そうだよね。彼氏ぐらいいるよね……」
「いや、彼氏はいないんですけど。その……ごめんなさい……」
「ゆたさんどー。にふぇーでーびる」


冬の足跡も見え隠れして、本来だったら寒さからマフラーが欲しくなるようなこの頃。
まだまだ半袖でも過ごせるんじゃないか?と勘違いしそうなこの場所で、学校校舎の裏、あたしは同級生に呼び出しを受けた。

こ、れで何人目だろう。

あたしに告白をしてきた人が去ったあと、あたしは思わず一つ大きな溜息をはいた。
沖縄に転校して三ヶ月。最初は物珍しさからあたしに告白してくる人が絶えないのかと思いきや、気付けば両手では数えられないくらいの人から想いを告げられるようになってしまった。

それは、向こうにいたときには考えられない数。こっちでは色白の人が珍しいだけな気もするが、何故にこんなにも想われてしまったのだろう。

どうせ想ってくれるなら、一人の人がいいのに。

ブツブツ独り言を唸りながら教室に戻る途中、目の前に褐色の肌で、モサモサ頭の男の子が急に飛び込んできた。


「わっ!」
「希!また告白されたんんだって?!わんにんかい断りんなく……」
「甲斐君!どうしてそれを……」
「凛からちちゃん」
「平古場君から……ち、?」
「あぁ、凛から聞いたさー」
「なるほど……勉強になります」
「どういたしまして」


甲斐君は、同じクラスで席が隣の男の子。戸惑うあたしに最初に声をかけてくれて、こうやって沖縄の言葉も教えてくれる。
屈託なく笑うその笑顔に惹かれて二ヶ月……。甲斐君はあたしのボディーガードみたいに接していて、そこに色恋沙汰はないように見えるんだよね。

何故ボディーガードになったのかというと……。
甲斐君達はテニス部で人気者らしく、全国にも行ったのだと話してくれた。そんな人気者の彼のそばにあたしが居ることで、あんまりよく思わない女子がいたんだよね。
呼び出されたときに颯爽と助けに入ってくれたのが甲斐君だった。右も左もわからないあたしにとって、それは心奪われた瞬間でもある。


「にしても希ーモテるやー」
「……本当、なんでだろうね……。もう物珍しく思う時期はとっくに過ぎてると思うんだけど……」
「……モテすぎいんとぅ、わんがくまいんんやさやー……」
「ん?なんて?」
「いや、なんでもないさー。まぁ、困ったことがあったら、遠慮なくわんに言えよやー」
「うん!いつもありがとう」


その眩しいくらいの笑顔にあたしもなんとか微笑んで返すと、甲斐君はあたしの頭を軽く二回程撫でた。

……そういうとこ、なんだよね……。

甲斐君のパーソナルスペースが狭いのか、どんどんあたしの内側に入り込んでくる。最初は凄く戸惑ったけど、その蕩けるほどの笑顔と甘い態度に、あたしはとことん浸かって抜け出せなくなってしまった。

どうしたら……この気持ちは伝わるのかな。





♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦





放課後、甲斐君が「テニス部に行ちゅんしが、一緒に行かん?」とお誘いを受けて部外者にも関わらず見学させて貰うことになった。

甲斐君達はもう引退したってことなんだけど、後輩指導するのに週に一回はテニス部に行ってるそうだ。
甲斐君の後ろを歩いてテニスコートに向かうと、眩しい笑顔の甲斐君の向こう側から、何故か歓喜にも似た声が後輩君達から上がっている。


「なっ!甲斐先輩!比嘉ぬマドンナそーてぃちゃーしたって言いんがやー?!」
「ずるさんやあらんやいびーが!いぬクラスやくとぅって、うんな堂々とぅそーてぃあっいてぃ!わったーんかいん分けてくぃみそーれーさぁ!」
「やんー!かしまさん!たーがぃやーらんかいくぬ隣明け渡すが!」


もう、なにを話してるかなんて、全くわからないあたしは、甲斐君の袖を少しばかり引っ張った。
それに気付いた甲斐君は、頬を少し赤く染めてあたしの背中をグイグイ押す。んん?何事?


「え?甲斐、君?どうしたの?」
「くんなとこ、いたらダメやん。襲わりーん。」
「え?!襲……?!」
「あっ!いや、あんな男ばっかなところ、希には似合わんさー。少し遠くで見てたほうが……」
「……え?甲斐君のこと、遠くでしか見れないの?」
「はい?!」


背中を押す手が止まる。あたしも思わず口走った台詞に気が付いて、顔に熱が集中していくのがわかった。

……しまった、なんて思ってしまうのは、この気持ちに気付いて欲しくないから……なのかな。
ううん、本当は気付いて欲しい。こんなにも気持ちが溢れでそうなのに、何食わぬ顔で甲斐君に守ってもらうままなんて……本当は嫌。


「希……うり、どういう意味やん……?」
「え?!あ、う……そ、のままの意味、だよ」
「わんのこと……そばで見てぃくれるってくとぅが?」
「う、ん……」
「ぬーんち……」
「……えっと、ぬ……?」
「あぁ、あー……なんでさー?」
「それは……その、」


今、ここであたしの気持ちを話す?話してもいい?

甲斐君の手のひらの温もりが、背中越しにじんわりと伝わってくる。あたしの心臓、聞こえちゃわないかな。それだけ近い、あたし達の距離。

甲斐君がどんな顔してるのか、すごく気になって。
背中の熱を感じたまま、あたしは後ろを振り向いた。
振り向かれる準備をしてなかった甲斐君は、あたしと目が合った瞬間、とんでもない速さで顔を逸らす。

でも。逸らした顔、どんな表情してるか丸見えで。
耳まで赤く染まってる甲斐君がなんだか甲斐君らしくて、早鐘を打つ心臓そのままに思わず笑い声をあげてしまった。


「ふふ……。あはは!」
「なっ!ぬー笑ってぃんやさ!」
「ふふ、ごめんなさい。ふ……だって、甲斐君……耳まで真っ赤だから……」
「日焼けやんし!赤くなってぃんでー……」
「……ほんと?」
「……ッ、う、希……」


ゆっくりと、甲斐君のその顔があたしのほうへ振り向かれる。いつもより真剣な眼差しで、その瞳と視線を交わす。早鐘の心臓はとっくに限界点を超えていて、あたしもその熱でどうにかなってしまいそう。

次に紡がれる言葉を待ち受ける。
甲斐君は、あたしに……なにを紡いでくれる、の?


「わん……希のこと……」
「甲斐君……」


その開きかけた唇が、次の音を奏でようとした瞬間……。
温もりを感じる背中から大きな衝撃が襲って、その紡がれるはずの音はかき消されていった。


「どわっ!!」
「きゃっ……!」
「希……!」
「裕次郎〜!うんなとぅくるっし突っ立ってぃ、ぬーそーしどー?って、三宅さん?!」


どうやらあたしは甲斐君に押される形で前に倒れそうになったところ、同じく前のめりになった甲斐君によって抱きかかえられ、寸でのところで倒れずに済んだ。
その大きな衝撃を与えた人物……それは。


「……凛?!ぬーしやがいんんやさ!」
「まさかうまんかい希さん、うぅんとぅーうむわんたんくとぅ、裕次郎ぬ姿みーてぃ思わず蹴っ飛ばしちまたん!ひーじーが?三宅さん」
「………………っ!」


なにを言われてるのか全くわからなかったけど、最後のはなんとなくわかって、この状況に言葉を発せられないあたしは頭を何度も頷くしかできない。
甲斐君に抱きかかえられて、あたしに触れてる腕と背中がじわじわと熱くなっていく。鼓動の音が耳に響いて、とてつもなく心臓が痛い。


「あ、希。凛はわん見て蹴っ飛ばしたらしいさー。怒っていいぞ?」
「わっさいびたんなー三宅さん!あれ?ちら真っ赤やんやー?ちゃーした?」
「……え?!」


慌てたように甲斐君があたしの顔を覗き込むから、思わずその顔を両手で突っぱねてしまう。
「ぐえっ!」という鈍い叫びがもれて、その腕が緩んだすきに甲斐君と距離をとった。こんな顔、見られたくないから。矛盾してる、こんな気持ち。


「……希?!」
「あっ、その!あ……っと、ね!」
「希……ぃやー、その顔……」
「ご、ごめん!あたし帰るね……!」
「希?!!」


思わず駆け出してしまう。一瞬、甲斐君が腕を伸ばしたのが見えたけど、そんなことはお構いなしに正門に向けて走り抜けた。

この気持ち、本当は気付いて欲しい。だけど、それを告げる勇気はあたしにはなくて。
本当に一緒にいてくれる人は一人でいいのに。

ねぇ、どうしたらいい?
この痛いくらいの心臓……。
本当はアナタに触れて欲しい、のに。










世界で一人はアナタだけ
(凛……)(……むーやさ)(ぃやーがこんだれー……わんねー!わんねー!)(知らねーさぁ!比嘉ぬマンドナーぃやーぬだけぬじゃねぇ!)(はぁ?!わん、ちかんどー!)(あたいめーだろ。たーが話すが)(ぬーんちやさ!)(あんてーんベタ惚れじゃ、すーぶねーんだろ)

※訳(笑)
(凛……)(……なんだよ)(お前がこなきゃ……俺は!俺は!)(知らねーよ!比嘉のマドンナはお前だけのじゃねぇ!)(はぁ?!俺、聞いてないぞ!)(当たり前だろ。誰が話すか)(なんでだよ!)(あんだけベタ惚れじゃ、勝負ないだろ)

と、言う訳で……yoppiさんリクエストの甲斐君でした!初めて書く甲斐君……わたしの初めてをとことん奪っていきますね、yoppiさんは。しかもうちなーぐちも難しすぎて、わたしもワタワタしながら書かせて頂きました(笑)

しかし、甲斐君のヤキモチ妬き度がイマイチ上手に出なくて……オチも考えてた内容すっぽり忘れちゃったりと波乱万丈な出来上がりになってしまいました。ちょっと不完全燃焼気味なリクエスト内容になってしまいましたが、とてもお勉強になりました!

yoppi様!この度はリクエスト本当にありがとうございました!
これからもLiebeslied.とシロサギをよろしくお願い致します!

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