夢
『────殺兄…』
ふいに聞こえた懐かしい声。
振り返どもその姿は見えず…
朧気ながらも、お前の笑顔を忘れることは無い。
皆が静まり返る夜に記憶が蘇り、廻りめく。
この記憶は、私だけの記憶。
誰にも知りえぬ後悔と苦悩。
毎夜、昇る月は誰が為に満ち欠ける?
私は誰が為にこの刀を振るう───?
問い掛けるも答えが返る筈もない。
旅を続けるなか、感情などは棄てたものと思っていた。
それがお前の顔を再び見つけた途端、様々な想いが駆け巡った。
血に濡れようとも、私の側で身を案ずるお前の姿に、在りし日の記憶と重なる。
確かな温もりを感じた。
変わらぬ笑顔に私の心が揺れ動く。
戦いに身を投じる私に、お前は悲しみを覚える。
私は、戦に生きる者…それが戦国一の大妖怪であり、追い求め続けた姿。
だが、どうやらまだ私はお前を危険に晒してしまうようだ。
あの日の事を案ずれば、我が身の様に悲しむ。
何故、お前が悲しまねばならぬ…?
私はもうあの様な目には合わせぬ為に、この刀を振るっているつもりだ。
だから……私に飽くな…
また巡り会ったと言うのに、離れていくのは何故だ?
私は何の為に刀を振るえばいい?
───息を潜め夜が明けるのを待つ。
朝が来れば、旅も戦いも、全てが始まる。
お前達が起きれば、たちまち静寂は破られ、私も過去から今に戻る。
戦とは無慈悲であらねばならない。
そう思えど、お前の顔が浮かべばその手は鈍く、枷を与える。
この想いをもう一度、何処かへ捨て切る事が出来たならば、幾らかは楽になるだろうか?
ただ、私はあの日に戻りたいだけやもしれぬ。
父上、母上、私に懐く小鳥のさくら…