「タイウィンさま、今日もこんなに怪我をしてる…」
「すみません、いつも助かります。」

磨かれて銀色に光る鎧を脱いだ彼の体には、毎日たくさんの切り傷や微量の出血。
手はマメで固まっている。
幼なじみであるタイウィンが近衛隊長になってからは、少し疎遠気味になってしまった。
でも治療の間は二人で向かい合うことができる。
私はその時間が大好きだった。
戦いの時も後ろで援護するから一緒にはいられるけど、傷を負う姿はあまり見たくない。

今はシュネル様を探す旅をしている。
だから私が危なくなると身を呈して守ってくれる。
ついて行きたいと思う反面、お荷物なのではと感じて苦しくなる。
静かな宿屋の部屋で塗り薬をつける。
大きくて温かい手。
何者からも守ってくれる頼もしい背中。
鍛えわたった腕。
細かな傷口へ丁寧に塗り込む時、じっと見つめられている気がする。
化膿していないかも確認して、ケアを終わらせる。

「さぁ、外へ出てご飯を食べに行きましょっ。」
「そうですね…」

何か言いたげな顔を見せたが、それも一瞬だけだった。
この付近に評判の店があるという情報を見かけた。
少し楽しみにしながらそのお店へと向かう。
美味しいご飯は活力の源。
いい食事といい睡眠が一番大事。


「明日も頑張れそう!」
「どれも美味しかったですね。」
「戻ったら地図を見て、行先を確認ですよね?」
「えぇ、確認次第シャワーを浴びて寝ましょう。」

気分よくタイウィンさまの隣を歩く。
ふと手を繋ぎたくなったけれども我慢。
私は隊長補佐…部下らしい振る舞いをしなくちゃ。

(でも…寂しいな…)
(手を……なんて考えてはいけない…)
(昔は何も気にしなくてよかったのに…)
(こうして隣に立たせる事を許されただけでも、ありがたく思わないと…)

「あの…タイウィンさま。」
「どうかしましたか?」
「えっと……その…」
「…」
「あのっこうして宿屋で休めるのはありがたい事ですけど…無理してないですか?」
「無理をしているとは?」
「私っ!野宿でも大丈夫ですから!だから…もっと自由に行動…しても……」
「あぁ…気を使っていると思っているのですね…心配ないですよ。」
「……」
「安息の確保は身と心に余裕を持たせます。ですから、なるべく野宿は避けなければ。」
「そう…ですね…」

どうして素直に聞き入れることが出来ないんだろう。
タイウィンさまは独自の判断で…私ではなく、先を見つめて考えているはずなのに…