彼女…さくらから宿屋に泊まる事を指摘された。
勿論、第一に考えているのはさくらの体のことに決まっている。
しかし、それを口にしてしまってはいけない。
語尾に連れ主張が小さくなる姿を見れば、なおさら。
隊長として部下の士気を下げないための対策、そう言い聞かせる。
心に思っている事をそのまま伝えることが出来るのならどれ程いいか…

宿泊する時は節約のため、一部屋に二人で泊まる。
毎回、私がソファや椅子で眠ると言っても聞かない。
無理矢理ベッドに連れて行かれる。
私も無論、ベッドで休ませるために言っている。
そうしてお互い譲らずに結局、喧嘩する位なら二人で寝ようと決めた。
今日も少し小柄な体と密着して眠る事になる。
正直、眠りにつくまで落ち着かない。
柔らかく、落ち着く匂い、あどけない寝顔。
隠し持っている好意で苦しくなる。
しかし背中合わせで眠るには狭い。
自分を落ち着かせる為にも抱き込むように眠るのが、最近癖となりかけている…

タイウィンさまもなかなか意固地で、私も譲れなくて。
話が通らないもどかしさについ、二人で寝ようと言ってしまった。
あの日を少し後悔している。
狭いベッドに二人。
片方は男で。私は女で。
お互い背中を向けて寝ると、どちらかが落ちてしまう。
だから、いつもタイウィンさまは私を抱きしめて眠る。
抱き枕にされるこの時が一番緊張する。
体の下敷きになる手は無造作に置かれ、上の手は抱き抱えるように。
少し蹲った隙間にすっぽり収められ、背中に体温を感じる。
胸が高鳴ったまま、深呼吸をしながら眠りにつく毎日。
髪が長いから赤くなる顔を見られずにすむ、それだけが救い。
でも少し幸せ。
好きな人と一緒に、温もりを感じながら眠れる。
でもこの気持ちは私だけ、それに隠さなければいけない。辛い。


近頃、近づいた人が次々といなくなる森が噂されている情報を聞いた。
怪しい所があれば探しに行く。
消えたシュネル様の手がかりだけでも見つかるように祈りながら。
そこは決して雰囲気がいいとは言えない森だった。
いなくなった人を見つけ次第保護しながら奥へと進む。

ザザッ

「っ!……?」

今確かに草が揺れる音がしたような…

「どうしました?」
「…い、いえ…気のせいだったみたいです。」

こんなに薄気味悪いのだから、魔物の1匹や2匹はいるよね…
そう思って前へ進もうとした時…

パキ……バキバキッ!

「危ないっ…!」