「ねえ、もうすぐテストじゃない?」
「私、咲子みたいに頭よくないから憂鬱だよ」
授業の合間は決まって咲子とお喋り。
「何いってんの〜。アンタには強力な助っ人がいるじゃない?」
「たっくんのこと?」
「そうそう。羨ましくてたまんないわ」
「ん、でも…今回は頼らないでおこうかなって思ってるんだ」
「え!なんで?」
テストが近付くといつもたっくんが勉強を教えてくれてた。そのおかげで、私の成績はどちらかといえば上位の方で。読み込みも記憶力も悪い私に根気よく教えてくれる彼の力を借りたいのは山々だけど…
「拓巳と付き合ってんの?」
だけどやっぱり今回は、遠慮しとこう。それに彼にとって今年は大学受験を控える大切な年だ。邪魔するわけにはいかない。
「あっ!なまえ!噂をすればなんとやらよ!」
急に咲子がそんな声を上げて私の肩を揺さぶった。彼女の指さした方向に視線を向ければそこには女子達が黄色い声を上げ群がっている。
(…なんだろう?)
そこの中心に何があるのか、私からは全く見えず視線を泳がしていると。
「みょうじさん!呼んでるよ!」
「え?わたし?」
その近くにいた一人の男子生徒が私を呼んだ。不思議に思いながらも、未だ女子の群がるそこに近付く。すると黄色い声を上げていた女子が一瞬にして静まり返り、私に向かって冷ややかな視線送った。
「…た、っ佐藤先輩?」
「嫌だなぁ。佐藤先輩だなんて。」
いつもの愛称で呼ぶのを慌てて言い換えると、甘く微笑んだ彼に近くにいた女子達が悲鳴(…歓喜?)を上げる。
「ど、どうしたの…?」
「最近、来ないから心配に思ってね。」
そう思えば最近あまり生徒会室に顔を出した覚えがない。心配して来てくれたのは嬉しいけど、これじゃあなんの為に控えてたのか意味なくなっちゃう。
「なまえになんの用だよ。」
聞き慣れた声が聞こえて振り返ると、そこには不機嫌そうな表情を浮かべた水嶋くんが立っていた。
「きゃあ!イケメンツートップじゃない!」
ズイ、と私の前に出てたっくんと並んだ彼。そんな二人に黄色い歓喜の声がまたも飛んだ。
やっぱり従兄弟だけあって…従兄弟?
「あ、なんだ。私じゃなくて水嶋くん心配して来」
「「いや、それはない。」」
きっぱりと私の言葉を遮った2人。なんなんだろう。仲がいいのか、なんなのか、さっぱりよくわからない。
「とにかく、生徒会長ともあろうお方が何の用なんスか?」
「君に用があるんじゃないよ。僕はなまえに言ってるんだ。君は頭も悪いからわからないかな?」
「うるせーよ。」
「あの、ふたりとも…なんでそんなに火花を…」
冷ややかな視線を水嶋くんに送るたっくん。青い炎を燃やしてたっくんを見る水嶋くん。
鈍感な私でも気付く程、なんともいえない邪悪な空気を取り巻く二人にびくびくとして聞くと。
「なまえ、いいかい?僕らは昔から仲が悪いんだ。今に始まったことじゃないよ」
「出来れば顔も見たくない程にね。」
あのいつも優しいたっくんが、あの水嶋くんが、今まで見たことのない冷ややかな笑顔で私に言った。
(なんだろう…怖いな)
なんでそんなに仲が悪いのか理由はわからないけど。
「でも、従兄弟なのに…」
「それはただの偶然だろ。なまえだって昔――――」
そう水嶋くんがいいかけて、
「なーにしてんだ、おまえたち。」
すぐに聞こえたのは月本先生のそんな声。どっしり、にんまりと、たっくんと水嶋くんの間を割るようにそこに立ちはだかった。
「ちょっと先生!ビジュアルが崩れるからどっか行ってよ!」
「水嶋くんと佐藤先輩の真ん中に立てるってどーゆう神経してんの!?」
女子からの批判が炸裂しても、全くもって怯まずに未だににんまりと面白そうな表情の月本先生。
「ほーほー。なるほど。いやあ〜モテる女は辛いな。」
「…はい?」
「触んなよツッキー。」
「触れないで頂きたい。」
「はいはい。でも続きは今度にしろ。授業はじまっから。」
はいはい、おまえらも席つけな。なんて野次馬達を一掃する。
「ほら、おまえも。用事ねえんなら3年の教室にもどんな」
ちょうどチャイムが鳴った事もあって、たっくんは最後私に「またね。」と言い残すと姿を消した。
その時みせた笑顔はいつも通りだった、けど…どこか引っ掛かる気がして。
次に水嶋くんに視線を移して見たら、未だ不機嫌そうな表情を浮かべていた。
(…なんだろう、)
なぜか、すごく懐かしい感じがした。
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