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「トモハル先輩…好きです」

青春真っ盛りの高校2年の秋、オレは体育館裏で後輩と思われる一人の女の子に告白されていた。

「…私と、付き合って下さい。」

そう言った彼女は頬を真っ赤に染め、緊張してるのか小刻みに指先が震わしている。

女の子から告白されんのは初めてじゃない。けど、どうしてこんなオレに告白して来るのかが不可解で。

そんな彼女に対しオレは困ったように頭を掻いて言った。


「オレ、女だって…知ってるよな?」


小町智晴。正式な名前の呼び方はトモハルじゃなく、チハル。
ーーー正真正銘の、女だ。

「知ってます、でも…体育祭のリレーで走るトモハル先輩を見て…もう、どうしょうもなく好きなんです」

まんざら嬉しくない言葉でもない、が…オレは彼女を受け入れる事は出来ない。

オレが女で、彼女も女である以上きっと無理だろう。

同姓愛を毛嫌いしてるわけじゃない。そこにはそこの世界があり、触れもせずどうこう言うのはオレの美学に反する。しかも、オレだって紙一重で似たようなものかもしれない。

「…ごめんな?オレみたいな変な奴を好きになるより、もっといい奴みつけて幸せになってよ」

彼女の表情を伺いながら申し訳なさそうにその言葉を言った途端、彼女の大きな瞳からポロポロと大粒の涙が溢れた。

「そ、れでもトモハル先輩が好きだったら…?」
「う〜ん…」

告白されて何が辛いかってのは、オレは男だけど女だから女の子の辛さも分かっちゃうって事で。

ツレのジョーが言うにはその優しさがまた女を虜にさせてる、らしい。因みにこの子はそのジョーが前に「可愛い!超可愛い!」と連呼してた子だ。

「それでも、ごめん。まずは友達から始めさせてくんねーかな?」

断っているのか、受け入れているのか。自分でも曖昧な答えだと思う。けどこの言葉が相手にとって一番いい答えだと女の子に告白されて24回目で閃いた。

「…わかり、ました。」

有無を言わせない。そんな言葉。これでもまだ好きだとは言わないだろうし、ましてや付き合って下さいなんて言うはずがない。あわよくばそうしている内に他の男に向いてくれるだろう。

そう小さな声で彼女は俺に告げて、体育館裏から走り去る。

その背中を見送ると、一人深くため息を付いた。

「つ…つかれた」

どうして告白されんのはこうも疲れるんだろうか。相手の極度な緊張状態が移るのか?オレも緊張してんのか?

ああ、違う。そうじゃない。

もし、俺が正真正銘の男だったら今頃浮かれてスキップしてるかもしんねー。

こんなに疲れんのはオレが女だからだ。

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