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「トモハル!今日部活休みだってよ!」
「マジか!っしゃ!」

体育館裏から教室に戻る際、クラスメイトの一人にそう声を掛けられ思わずガッツポーズを取る。

オレの部活は野球部。甲子園なんて夢のまた夢の遊びのようなもんだ。そして、ちなみにエース。

公式戦には出られない、エース。

制服だって男子生徒用のブレザー。当たり前だがそのズボンに社会の窓はしっかりとついている。だけど、そっからブツを出す事はない。というか出す物が、ない。

もちろんオレには随分と小ぶりだか胸だってあるし、月経だって来る。トイレは女子トイレ。だけど更衣室は女子に入れば女子が恥ずかしがるし、男子に入れば男子も困惑した表情を浮かべるから毎回決まって誰もいなくなった女子トイレの個室がオレの更衣室だ。

こんな面倒までしてどうして男でいるのか、理由は大きく分けて2つある。


ひとつは母親に問題があった。

“男の子が育てたかったの”

母さんはオレを産む直前に卵巣に筋腫をが見つかり、命掛けで俺を産んだのちそれを体から無くしてしまった。

だからこの先もずっと一人っ子なオレに自分の夢だった“息子”を押し付けた。

女の子のオレを愛していないわけじゃない、けど出来るならボーイッシュな女の子になって欲しいな、ただそんな軽い気持ちだったんだろう。あの母親の考える事だ。あながち間違いではない。

産まれた時から、ピンクじゃなくブルー。ピアノじゃなく、空手。

そんな軽い気持ちで初めた物に次第に熱が入りすぎたのだ。そんな母親の熱心な息子教育の末、今現在オレはどこからどう見ても男子高校生。

たかが母親が息子を望んでいるからだと言って、制服は男物、体育も部活も男と一緒なんて事が有り得る筈がない。

それが、大きくわけた内もうひとつの理由だった。


「竜太郎!わり、遅れた!」


教室に足を踏み入れ、窓側の席でうつ伏せになって寝てる一人の男子生徒に向かって声を張り上げる。

「…おせーよ。」

むくりと顔を上げ、ラフに切られた短い黒髪を掻いて延びをする、萩野竜太郎(ハギノ リュウタロウ)。

オレんちの隣の家に住んでる幼馴染み。コイツとは産まれた時から一緒にいたと言ってもいい程、常に一緒。親同士も仲が良く、小さい頃から家族旅行だって一緒に行った。

小さい頃から高かった身長が今ではバスケ部が喉から手が出る程欲しい186センチ。目は鋭い切れ長の二重に、綺麗に通った鼻筋。そして形の良い薄い唇でオレを呼ぶ。


「チハル。」


オレをそう呼ぶのは親含め、世界でたった一人だけ。

竜太郎だけだ。

両親も近所のおばさんもクラスメイトも、誰もが口を揃えて“トモハル”と呼ぶ。ニックネームみたいなもんだと思っていたが、ここまで徹底してると最早チハルの方がニックネームみたいなもんだな、なんて。


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