06「じゃあ、また後でな!」
竜太郎んちの車庫に入る前に自転車から飛び降りる。そして向かいにある自分んちの玄関目指して歩き出した。
「あら?トモ君おかえりなさい」
リビングの扉を開けると、いい年こいてピンクのエプロンを付けた母親がそうオレを迎えた。
…だから、チハルだっての。
と、言っても無駄だと分かりきってるオレは何時も通り「ただいま」と返しリビングを見渡す。
そして目に止まったのは父親の姿。
「あれ、父さん。今日はやいね。」
「おお、最近なかなか残業すらさせて貰えなくってな。」
「不景気って奴?大変だね」
父さんは一応大企業に勤務していて、そのおかげか母さんは専業主婦。日々ショッピングに趣味の園芸に大忙しだ。
母さんは3人姉妹の次女に産まれ自由奔放で楽天的。反対に父さんは末っ子長男、姉3人。そのせいか少し気弱なところがある。が、バランスの取れた夫婦だと思う。
「トモちゃん、そこのチャンネル取ってくれ!」
…だからオレ、チハルだって。
名前を付けた両親ですら本当の名前を忘れてて、よくグレなかったななんて思けど、小柄な体で必死にチャンネルに手を伸ばそうと頑張ってるちっさいおっさんを見て「そんな気も失せるよな…」なんて一人呟いた。
「今日オレ竜太郎んち。」
父さんにチャンネルを渡し、夕食の準備を始める母さんの背中に向かってそう言うとオレは階段を登って自分の部屋に向かった。
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