05
それが男としての友情感情なのか、女としての恋愛感情なのか、今でもわからない。

けどオレにとって竜太郎はずっと前から他とは違う、トクベツな人間だった。

「竜太郎、帰ろーぜ」
「…さびぃ。帰りたくねえ」
「無茶いうなよ。」

竜太郎の傍に居られる事がただ単純に嬉しくて。

だけどそれがトモハルとしてなのか、チハルとしてなのかやっぱりわからない。

オレ自身、男なのか女なのかわかってねーんだ、きっと。

「まだ11月なのに寒いか?そんなに。」
「竜太郎は昔っからありえねーくらい寒がりだかんな。」

教室を出て昇降口に行くと、開けっぱなしの入り口から風が舞い込み竜太郎が肩を縮ませる。

小さい頃からそう。男の癖に寒がりで、冬は湯タンポがないと寝れない男なんだ、竜太郎は。

「じゃあな!ジョー!」
「おー!また明日なー!」

自転車置き場まで来ると、バス通学のジョーと別れる。本当はオレらだってバス通の方が早いし、楽。

だけど竜太郎がバスに乗れる筈もなく、オレらは毎日一台の自転車で2ケツして帰る。もちろん竜太郎が前でオレが後ろ。昔オレが漕いで派手に転倒して以来、それは決まり事になった。

「なあ、竜太郎。ジョーってさ、オレと同じ位の身長じゃん。」
「おー」
「なのに、すげー小さく見えんだよね。アイツ前世小人?」
「しらねー。てか、俺から見たらどっちもチビ。」

他愛もない話をしながらカシャン、と竜太郎が自転車の足枷を外し乗るのを見て、オレも竜太郎の肩に手を置いて股がる。

そして自転車が走り出すと11月の冷えた風が頬を霞めた。ぶるっと一度体を震わせ自分の体を竜太郎の背中にピッタリとくっ付ける。布越しに伝わる竜太郎の体温が少し暖かい。

「今日は任天堂かソニーどっち?」
「ソニー。」
「即答かよ。どうせ寒いから家出たくねえんだろ」

任天堂はオレんち、ソニーは竜太郎んち。これは昔に決めた役割分担。任天堂からゲームが発売されれば俺が買い、ソニーから発売されれば竜太郎が買う。他のゲーム会社から発売された場合のみ、ジャンケンで決める。

めっきり寒くなってきた季節のお陰で、オレんちのマリオ君はもうそろそろ冬眠を始める筈だ。

「あっあれ!竜太郎君じゃない!?」
「後ろに乗ってるのトモハル君よね!?」
「ヤバい!見れて超ラッキー!」

シャーという軽快な車輪の音。そしてオレらを指差し黄色い声を上げる女子高生の姿も町並みと共に視界を流れて行く。

「チハル、金魚道。」

竜太郎のその声にハッとして、慌てて竜太郎にしがみついた。

金魚道とは小さい頃オレが勝手に名前を着けた、ただの砂利道。だけど、ここの砂利道の石は普通より少し石が大きくて、自転車が酷く揺れる。

この金魚道で自転車が難度ヤられた事か。パンクも怖いけど、この道が家までの最短距離。

もう、すぐそこだ。


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