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ふと気付いた、奴の存在。エンドロールが流れる画面から、隣にいる竜太郎に視線を映す。

「…寝てんのかよ、マジで。」

人が必死こいてラスボス倒してたってのに…。

俺の腰に腕を回したまま、規則正しい寝息を立てる竜太郎。恨むように睨み付けても寝てる竜太郎には無意味。てか、起きてても気づかねーような男だしな。

今度は眉間に寄せていた皺を解いて、竜太郎を見る。

でも、ほんと、綺麗な顔してんな。

全く荒れていない極めの細かな綺麗な肌に、漆黒で長い睫毛。高く整った鼻。シャープな輪郭。竜太郎の身体は、どの箇所を言ってもプラスの要素がついてくる。

日本人場馴れした長い足、長い腕、男らしいごつごつした手、指、爪。細いくせに筋肉質な身体は女子から高い評価を得ていて。

ふわり、と触れた髪質は…なんだろ、酷く落ち着く。

「んー…チハルー…」

いきなり竜太郎の唇が動き、起きたのかとぎょっとする。

「…まんじゅう、とって」

けど、ただの寝言だと分かり、思わず笑いを堪えた。

ぷっ…竜太郎、可愛いすぎる。

オレに饅頭とらしてどうするつもりなんだよ。てか、どんな夢見てるか超気になるし。

「夢にも出現してんだな。オレの存在、超強力じゃん。」

確かにオレも夢を見ると5回に4回は確実に竜太郎が出てくる。

ああ、そりゃそうだよな。当たり前だよな、そんなこと。その位、いつだって近い場所にいたんだ。

17年間、ずっと、ずっと。

「…。」

クラスメイトの女の子が竜太郎に名字を呼ばれて嬉し泣きをしていた光景がふと脳裏に過った。

もし、オレが幼馴染みじゃなく家も隣じゃなかったら、オレもそうだったんだろうか。

竜太郎を見れるだけで幸せで、竜太郎に名字を呼ばれるだけで泣ける程幸せ、だったんだろうか。

名前を呼んでも振り向かれず、悲しむんだろうか。触れる事も出来ず泣くんだろうか。


「…竜太郎、」


ああ、ねえ、どうしよう。



『 チハル。 』



「…好き、」



そう呼ぶ声が、唇が。


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