ふれあいコーナーじゃないんですけど
さて、本日も早速ピンチである。
いやタレントさんを前にピンチなんて失礼なのだけど、相手が相手なのだから仕方ない。
私の天敵"登坂広臣"さん。最近は以前よりも関わりができて天敵というほどではない…なんて思いかけていましたがやはり苦手です。
そんなに苦手と思っているにもかかわらず、素直に髪色をミルクティーアッシュに戻している辺り実はそこまで苦手ではないのかもしれない。
今日は前ELLYさんにに可愛いと言われたピアスを両耳に揺らしている。
登坂さんから頂いたピアスは依然として着けることはできずにいる。なんか着けにくいし…。
そしてまあ今日がなぜピンチかというと、見方が一人もいないのだ。
この仕事をしている以上、グループの仕事だけではなく個人の仕事も担当している。
私がメンバーさんの個人の仕事を担当させていただくようになったのは最近のことで、それも岩田さんや山下さんという比較的年も近くて話し易い方だったから何とかこなせていた。
今日も個人の仕事だと聞いていて、きっと岩田さんだろうなあなんて考えていた。ほぼ願望だけど。
しかしなんだ、準備をしている中開けられたドアから入ってきたのは登坂さんだった。
お互い動きが一瞬止まる。
えっと、とりあえず挨拶…
『おはようございます』
「……」
通常運転、でも挨拶くらいしましょうよ。一瞬目がバチッと合ったけど直ぐに逸らされる。
なんだ、目を合わせるのが俺流挨拶なのですか?
なんで私を担当にしたんだよチクショー先輩め。あの人今市さんがお気に入りだからって、今市さんはみんなのものだぞ。
マネ「今日の担当は山田さんなんだね、安心だわ。早速よろしくね、」
『…はい、よろしくお願いします』
マネ「じゃあ私は打ち合わせに行ってくるから登坂のことよろしく」
『……は?』
デジャヴ…つい最近同じようなことありましたね。なんだ仕組まれてるの?
『あの…登坂さん、セットしたいんですけど』
「……」
おい。スマホはいじったままで良いからこっち座れや。いやほんと、この人はなんなんだよ…。
私の視線に気づいたのか、それはもうダルそうに立ち上がって鏡前の椅子に座ってくれた。
「ハア…」
いやこっちがため息つきたいわ。
大御所さんでもこんな態度じゃないぞ。
『今日はどんな感じにしますか』
「……」
『……』
「……」
『答えてもらえます?』
おっと、失言。タレント様に強く言っちゃったよ。
「すみません」と頭を下げれば、鏡の中の目がグッと大きくなって唇が動く。
「いつもの、」
『はい、』
強く言わないと返してくれない系男子?まだ始まったばっかりなのに凄く疲れる…。
しかめっ面のいつもの方を前髪ツンツンにセットをすれば、もっと険しい顔をする。
気に入りませんでした・・・?
いや貴方がこうしろって言ったんだからね。
『できました、』
「ん、」
はい、想定内です。
早く控え室から出たいから急いで片づけをする。きっと私が居たら本番までゆっくりできないだろうし。
セットを終えた登坂さんは近くの椅子に移動して雑誌を読んでいる。女子かよ。
「ねえ、」
『……』
「おい、無視すんなよ」
『え、私ですか』
「お前以外に誰がいるんだよ」
自己中。彼にはこの言葉が一番似合うと思います。
『で、なんですか』
「ピアスは」
『ピアス?今日の衣装は特に指定とかないですけど』
「チッ…」
『え、』
舌打ちポイントが分からない。質問にはしっかり答えたのですが…。
チラッと登坂さんの方を見れば、めっちゃ機嫌が悪そうな顔をしていて怖くなってすぐに作業に戻る。
「この前あげたやつ、どうしたの」
『ああ…、なるほど』
「…なんだよ」
『いや、そっちのことかって』
「ん」
『あれは着けて…ないです』
「は?」
不機嫌オーラを背中に感じる…。振り向けない…。
なんて思っていたらガタッと椅子から立ち上がる音が聞こえて、怒らせてしまったのかと焦って振り向けば目の前に登坂さんがいた。
「なんで、」
『えっと…、』
「ELLYのお気に入りの方が良いの」
『へ…?』
スッと登坂さんの手が私の髪をすり抜けて右耳に触れる。
自然と顔があげられて、登坂さんと視線が交わる。
なんでそんなに寂しそうな目をしてるんですか…。
「これELLYが良いって言ってたやつ」
『そう…です、』
「俺よりELLYのが良いってこと?」
『なに言って…』
頬だけでなく首まで赤くなっている気がする…、あっ、耳も熱いかもしれない…。登坂さんにバレてるかな・・・。
だってこんな、真剣に見つめられたら誰だって、
「髪色、俺が言ったから変えたと思ってた」
右耳に合った熱が髪に移動して、ゆっくりと撫でられる。
なんでそんな優しい顔をして…。恥ずかしすぎるのですが…、さっきまでの冷たさはなんだったの。
『髪色は…、登坂さんが言ってくれたから…』
「じゃあピアスは」
『それは、なんか…着けにくくて』
「ピアス着けるの苦手なの?」
この人なに言ってんだ?天然ってやつなの。ボーカルが二人とも天然って平気ですか。
真剣な顔をしてそんなこと言ってきたから、面白くてつい笑ってしまったら驚いたのかハッとした顔をしてその後、睨まれた。
『バカなんですか?』
「あ?」
『すみません』
「で、なんで」
『…、お揃いだから』
「俺と」
『はい、』
「何がダメなの」
『ダメというか…』
ほら芸能人の方とお揃いってなんかさ、それも特に仲がいいわけでもない登坂さんと。
他の三代目のメンバーが知ったらビックリするだろうし、
上手く言い返せずに顔を下に下げれば、髪を撫でていた手が動いて髪をくるくるさせ始めた。えっなにこれ、遊んでます…?
どうしよう…また顔が赤くなる…。
「ふはっ」
ぐるぐる考えていたら突然上から笑い声が聞こえて、驚いて見上げればいつものしかめっ面の登坂さん。
あれ、登坂さんの笑い声のはずなんだけど…幻聴だったのかな。
てかそんな険しい顔して髪を撫でられるのは恥ずかしい以上に複雑なのですが…。
コンコンッ
マネ「登坂〜そろそろスタジオに移動して」
「はい」
ドアの外からマネージャーさんの声が聞こえた途端私の髪に合った手を放して、すぐに準備を始めた。
鏡で衣装やメイク、髪型を確認してと忙しない。
私はさっきのまま動けずに、その場に立ち尽くしていた。
私も片付けの続きをしないと…、何とか体を動かして作業に戻る。
「さっきごめんね、」
『へ?』
声のした方を向けば、準備をしながら言ったようで目は合わない。
「聞こえてんだろ、聞きかえすな」
『す、すみません…』
「ん、」
準備が終わったのか、水を一口飲んで真剣なオーラが漂う。流石芸能人…。
なんて考えていたら急に近づいてきて、はて何かミスでもあったのかと首を傾げればジッと見つめられる。
「次会う時、ピアス着けてなかったら二度と髪触らせねえから」
と言って頭をポンポンと撫でられた。
撫でられた…?
今日はスキンシップ多くないですか。
『わかりました…』
「ん、じゃあ」
撮影に向かう登坂さんの背中が少し愛おしく思えた。
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