佐野
俺の彼女はいわゆる年上キャリアウーマンってやつで。夜遅く帰ってきたと思えば、朝早くに家を出る。
ちゃんと寝てるの?ちゃんと食べてるの?ってくらい線が細くて目の下にはいつもクマがある。
というか仕事大好き人間で、俺の誕生日でも関係なしに他の社員の仕事を引き受けたり残業したり…。
なんでこの人は俺と付き合ってくれてるのだろうと普通の男なら「仕事と俺どっちが大事なんだよ」とか言ってしまいそうな人。
それでも付き合えてるのは俺の性格と、たぶん彼女からの不器用な愛情のおかげだと思う。
俺だってダンスが大事だし。まあ同じくらい花子さんのことも大事だけどね。俺は花子さんの中で仕事の次に大事だったらそれで嬉しい。
時計を見ればもう23時、今日もかえり遅いな。スマホを開いても連絡なし。彼女らしいと言えばらしいけど、心配になる。
心配をすれば『玲於に心配されるほど子供じゃない』とか言うんだろうな。俺も子供じゃねえっつうの。
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何か物音がするなと、はっと目を開ければ隣には花子さんが座っていた。ってもう1時過ぎ、やべ、寝てたのか…。
ふっと肩に暖かさと重みが増して、横を見れば花子さんが頭を俺に預けて寝ている。珍しい…。
「花子さん、風邪ひきますよ」
『…ぅん、』
「花子さん起きて、スーツ脱いで、皺になっちゃいますよ」
『… …』
「ハア、」
仕方ない、ベッドまで運んでやるかと動こうとすれば花子さんに抱きしめられて、普段の言動とは正反対の可愛い寝顔が目の前に飛び込んでくる。
寝てるし、気づかれないよなとチュッと唇を塞げば胸を叩かれる。なんだよ起きてるじゃん。
「狸寝入りは良くない」
『うるさい』
「なに、チューされたかったの」
『違うし、子供のくせに生意気』
「ねえ俺もう子供じゃないよ…?」
『私から見れば子供よ』
「じゃあこれ以上のことはできないね」
花子さんの唇に人差し指を当てれば目を逸らされる、これは嫌だの合図。だよね?
「じゃあ遠慮なくいただき…あっ、」
『なに、正気に戻ったの?やっぱりおばさんは嫌になった?』
「いや、ってかおばさんってほど年離れてないじゃん」
『この年になれば2〜3年の違いは大きいの』
「うるせえ、それよりチョコは」
『は?うちにお菓子なんてないよ。食べたかったら自分で買ってきなっていつも…
「そうじゃなくて、バレンタイン」
『バレンタイン…?』
うわあマジで忘れてたのかよ…。まあいいけどさ、でもなあ。ちょっとショックだなあ…。
『ごめんて、でもほら別にチョコとかファンの子から貰うでしょ?』
「花子さんのは特別だもん」
『そっか…』
「何、照れてる?笑」
『照れてないし、じゃあ明日にでも買ってくるから』
「それじゃ意味ないし」
『ハア…』
『じゃあ、これで許して』と今度は花子さんからキスされる。やべえ、ちょっとキュンときちゃったよ。
「仕方ないから許す」
『ふふっ、玲於ってちょろいよね』
「うるせー」
バカ、花子さんだからに決まってるじゃん。
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