何もないことが一番だと思う。
毎朝起きてご飯を食べて学校へ行って、多少の波乱の有無はあれども人間関係をこなして寝る。
それだけでいいのに、いつからこの力を手に入れたのか、まったくもって不可解だ。
いや、原因は、きっかけはわかってる。
「……ああもう!!」
しつこいよ!と喚いたところで追ってくる彼等に通じる筈もなく。
ここで力を使うわけにはいかない、学校の廊下でそんな大声で言ってしまったら、何処かで聞かれていた時に完全に不審者扱いだもん。
息も切れ切れに、全力疾走してやっとたどり着いた実験室や音楽室などがある特別棟の無人の階。
呼吸を整えるヒマはないから、思い切り酸素を吸い込み、力を込める。
『止まれ!!!』
ぴたり。
時間が止まったかのように私を追いかけていたモノたちは停止する。
これは…人の悪意が寄せ集まった靄か。
学校ではこういうモノが集まりがちだが、私を狙うのはやめてほしい。本当に。
中途半端に強く、見聞きできるこの力のせいでよく彼らのようなモノに標的にされる。しかし幸運なことに…いやそもそもこんな力があるだけで不運なのだけれど。
とりあえず、私には力が祓うために備わっていたからよかった。
そう、見聞きが出来、祓うことができる。
力の種類としては取り憑かれるホイホイのようなものではない。が、強いため欲しがられることもしばしば。そしてこの声によって祓える。
『もう何も恨んではいけないよ。散れ』
昔から周りより高めの声で、幼げだと言われていてコンプレックスだった声音。
それが今になっては自分の身を守る最大の武器になっているなんて、笑えるんだか克服できたと喜ぶべきなんだか…
こんなことが日常的に起こるため、怖いという感情もほぼ消え去ってしまった。
「はー…つかれた」
帰ろ、と独りごちて夕日を受け入れるだけの廊下を戻る。
誰もいない。
真っ赤だ。
ぞわりと鳥肌がたつ
「あーあ。もう御免なんだけどなぁ…」
喉を抑えて辟易した。
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