「私、あの子と会って初めて妖怪に生まれてよかったと思いました。初めて自分を受け入れられたんです」


冬休みに眠る家々、部活動も少なく通学路にはほとんど人はおらず、閑散としていた。
ツタツタとスニーカーが小さく鳴く
待ち合わせ場所に向かいながらゆったり歩く


『そこがあの子の魅力やしな。それがなかったらここまで入れ込まなかったやろ』
「まぁそうですけど…はーあ、名前ちゃんのこと好きなのにな…皮肉ですね」
『お前、ズル賢いフリして自分からメンドイことしてるって気付いてるん?好きな子と一生を共にする男と仲睦まじい所にわざわざ乗り込むなんて』
「う、うるさいですよ!いいんです。私は…ううん、みんなも名前ちゃんの」


笑ってる顔が見れればそれでいいから




あの日、すべてにケリがついた、あの日。

どうやら、妖狐の影にのみこまれてから時間は進んでいなかったらしい
ニヤリといつしかの紫原のように笑った赤司だけがすべてを把握し支配していた

今日のところは解散しよう、また改めて話す場を設ける
そう赤司がまとめ、冬休み中のある日、彼らは始まりの場所であった帝光の体育館に集まった。
彼の計らいからか日曜だったからか、人はいない


「ウインターカップ決勝戦の日、名前に関する妖狐の件は大方片がついた」
「あの…それって、赤司っちと名前ちゃんが俺たちを探してくれて抜けた祭りのやつ?」
「へ?なんで知ってるの?あの時は私と赤司くんだけだったのに」
「あー…それならなんか俺も記憶に残ってるわ」
「俺も〜」
「記憶にあるというより、客観的に見せられていたというべきか」
「はい。意識というか感覚は、なんだかふわふわ心許ない感じでした」


口々に告げる妖怪たちと目を合わせて名前は暫しポカンとする。
どういうことだろうと彼女は癖である口元に手を当てる動作をしつつ考え出すも、到底検討などつかない


「それも君の先祖といったあの男性のおかげだろう。おそらくあの世界は誰かの意識によって作られたもので、その意志によって全員が俺と名前を見させられていた」
「そんなことできるのって赤ちんじゃなかったらその名前ちんの先祖って人なんじゃないのー?」
「まあ、そうだろうな」


祭りでのことと現実に帰ってきた時の流れは共有していたため、存外話すことは少なかった。
すべての謎が己たちの知識で解明できるわけではない、現に自分たちが妖怪憑きとして生まれたことすら運命で片付けられてしまうのだから。


「じゃああとは名字から妖狐を剥がすだけか」
「……うん」
「浮かない顔をするな。お前がお前として生きることは間違っていない、剥がすことに対して罪悪感を負う必要はないのだよ」


緑間に柔らかく頭を撫でられて名前は頼りない表情からふにゃりと笑った。
名前の影に憑き、彼女の一部となりつつある妖狐を取り除くのは容易ではない

彼女の祖母が死んで夢に出てきてから憑いていたのだとしたらかなりの時間が経っている上に、剥がした時に妖力ごと取るため彼女が使っている声としての力がなくなる可能性が高い。
いくら上位の妖怪たち総出で対処しようとも、長年かけて融合しかけている妖力を区別することは難しい

しかも、名前の力にはニオイがまるでない


「紫原に影から妖狐自体を取り出させる。出てきた妖狐は青峰が押さえつけろ。確実に消すために蛟の毒を入れてから俺が殺す」
「んじゃ、俺は妖力に釣られて集まってきた雑魚の始末っスね」
「みんな、お願いします」


一列に並んだ六人と対面する形で頭を下げて礼を言う。


「……待つのだよ。これだけ大掛かりなことをするんだ、当然リスクやそれに対しての対処法はあるんだろうな?」


その言葉に赤司はゆっくり瞳を閉じて、まっすぐに紺青の瞳を見つめた
もうその印付は消えないこと・声の力はなくなっても瞳も戻らないこと、あとは


「何かを一つだけを失うリスクはない。
──ただ、命を失うかもしれない」


は、と開いた口は音を発せず、咽頭が引きつっただけだった。
成功すれば何も欠けることなくいられるけど、失敗すれば死ぬかもれないだなんて
そんなの、そんなの─


「私、信じてるよ」


決まってるじゃない。
それでも彼等は最善を尽くしてくれるから、それならどんな結果でも私に悔いはない


「…本当に君は」


仕方ないなと言いたげな表情で笑う赤司は今まで見たどんな赤司よりもやさしかった


「融合しつつある血を剥がす代わりに、この中の誰かの妖怪の血を入れる。そうすれば助かる」
「誰かって、赤司くんじゃないの?」
「血が半分以上入ればもう君はその人物のモノだ…一生ね。血の契りと言うだろう?」


だから君は人生を共にしたい人物を選ぶといい、この六人の中から


みんな私を助けるために手を差し伸べてくれている、一生を共にすることになるのも厭わずに。
ならば、私は


「あなたの、血が。私はほしい」



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