はあはあと名前の荒い呼吸とざあざあと掻き消すように迫る雨音が支配する世界。
手を引いて走る赤司の背中と揺れる赤髪を見ながらあの時といっしょだ、と名前は思う
初めて出会って手を繋ぎ歩いた廊下
二人しかいなくて、背中と揺れる髪を見て触れたいと思ったんだ
彼がいたから迷うことなく来れた。
名前だけなら遅かれ早かれ、どのみち妖狐に喰らわれていただろう
「赤司くん。赤司くん、私」
「置いていけの言葉は聞かない」
言わんとしていたことを当てられて瞠目する
「俺が君を見つけたんだ、俺が最後まで責任を持つ。そして俺は君のかわりにあいつらを探してなんかやらない」
「、赤司くん」
「君が巻き込んだ、君の手で見つけ出してくれよ」
前まではベッコウ色だった左目が笑みをつくりながら軽く振り返る
ぎゅっと繋ぐ手に力を込められた
名前の瞳が暗闇の中できらり、光った
「そうだよ。アレは僕が始末しないと」
左肩にふんわりとした感触があり、驚いて見れば自分と同じ色素の薄い髪に紺青の瞳
すっきりと整った顔立ちと真白いまでの肌色まで名前とよく似ていた
「…えッ?え?」
「!誰だ」
「心配いらないよ、このまま真っ直ぐ走って。宵宮のある祭りに出るから、そのまままっすぐ東へと抜けるんだ」
彼が話してる間はなぜか雨音が迫って来ない
「その道中に必ず君たちの探している人の色をした風船があるからしっかり見つけるんだよ。そして君たちは絶対に手を離しても、振り向いてもいけない」
「…………貴方を信じる理由は」
「僕がこの子の先祖だってだけでは、だめかな?」
名前の力は受け継がれゆくモノ。
その中で一番強く力を持っていて妖狐と初めて接触し、今までの怨念ときっかけとなった妖力が名前の中に残っていても不思議ではない。
「祭りを抜けたらすぐに現世に帰れるから、心配しないで。ただ僕は今この妖狐を抑えるだけだから名前に融合してしまった妖狐の力は、君たちにとってほしい」
じゃあよろしくね、と自分とよく似た顔立ちの男性が妖狐へ向かっていく。
赤司は彼の言葉を信じたようで、名前の手を引き彼の指示した通り前進し始めた
「行こう。今は彼を信じて任せるしかない」
「──ッ!」
振り返ってみた後ろ姿に、気持ちがきゅうと締められて、どうしようもなくなる
「───さん…!」
知っているはずのない彼の名前が自然と出てきて、それに振り向いて笑んだ彼を最後に、祭りの騒がしい世界に二人は踏み入れた
夜空に目映く灯る明かりと何を言ってるかわからないくらいの言葉の群れたちが名前と赤司を包み込んだ
体の内側からカッカッと上がる熱に二人は息を乱すが、何も言わず一心不乱に風船を探し出した。
青緑紫黄空色──ひとつだって見逃してはいけない
「緑色!あった!」
「こっちにも青い風船が浮かんでたから次に取りに行く」
汗ばんでも決して手は離さずに。
見落としたか不安で振り返りたくても、互いに見なかったのなら無かったのだと納得させて。
一刻も早くしないと何かが変わってしまいそうな不安に駆られて、赤司が東を目指すのに引かれて名前はくちびるを噛んだ
「あとは黒子くんだけだ…!」
「落ち着いて。必ずある、あの人を信じて進みながら注意して行こう」
こくり
立ち止まって彼の言葉をしっかり信じてから、名前はまた足を動かし出す
ふと、名前、と赤司が静かに呼んだことによって彼女の世界が消えた。
喧騒も黒い人影のゴミのような群れも見えない
彼女と彼の、二人だけ
君はもうその力を使うことはこの先ないだろう
名残惜しそうに紡がれる
「だから最後に俺にその力を使って欲しい」
手に握られた頼りない一本の糸の先にある色とりどりな風船。
離さないために彼女は爪が食い込んでしびれるくらいまで握り締めている
「最後の一欠片まですべて俺に頂戴」
甘い甘い声。名前が絶対に歯向かえない、甘心をくすぐる危ういまでの効果のある声に頷いて、今一番の願いを口にする
『黒子くんの、空色の風船を見つけて。みんなで現実に戻ろ』
「君の願いなら、何なりと」
あらかじめ在りどころなどわかっていたかのように迷いなく進み、空色をその紺青に映したと思ったら赤司が軽く飛んでそれを掴み取って。
次の瞬間、ポカンとしたキセキと黛や実渕がいた
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