1
悲惨だったような気もするし、そうでもないような気もした。どうでもいい。
どうせ死んでしまったのだから。
仕事の帰り道、本屋よって帰ろうとしたのがいけなかったのか。
いつもと帰りをバス一本分遅くしてしまったのがいけなかったのか。
いつもと違うことをしたら行けなかったのか。ありきたりだけれどそれももういい。
何しろ死んでしまったのだから。
「ーーーーーあれ?」
徐(おもむろ)に目を開けた。
一呼吸置いてナマエはゆっくりと瞬きをする。そして辺りを見回した。
「あれ?」
先ほどと同じ声色だった。間抜けそのなのは誰が聞いてもわかった。
「私さっき死んだ。そう死んだ。信号無視して来た凶暴な車に3mくらい吹っ飛ばされて死んだ、そう、そうだよね。
天国って林の中だったの?嘘だろオイ!地獄にしては澄み切ってる空気じゃない?」
誰に対して喋ってる訳でもなく、ただ思っていることを述べて正直な感想を誰に訊す訳でもなく勝手に混乱の色を見せた。焦りをも含んでいるように思える。
「私は一体今どこにいるんでしょうかね…。天国か地獄か、それだけでいいから知りたいわ」
とりあえず辺りを見回す。どこからどう見ても雑木林の中にいるとしか思えない。木がそこら中に数えきれないほどに。傘も生い茂っている。
上を見上げると空は晴れ渡っていて天気も良い。日当たりも良好で木々の葉が隙間風によってゆらゆら揺れている。なんて良い天気なんだろう。
「ってそうじゃねぇわ。絶対ここ人いねぇだろ」
ツッコミを入れたのも束の間。耳に草を踏んで音を立てたのを聞き入れる。
ナマエはすぐにそちらの方を向くと真っ黒い瞳の男と目が合った。何より髪はボサボサでお世辞にも綺麗にしてる様には見えない。
「…は、ハロー?」
「は?」
「いえ、こんにちは」
雑木林から少し歩いたら人が暮らしている様な家があった。小さい訳ではないがポツンと佇む一軒家で、人気が全くないせいか少し虚しそうで。
その家の中に上がらされていたナマエは座布団の上で正座をしていた。
「あ、あの…お邪魔します」
「それはここに入る時に聞いた。俺は手前ェに聞いてるのは何であんなところにいたんだってことだ」
「あー、えっと…あー」
どこからどう話せばいいのかわからなかった。なぜこの流れになるのか。
男の言いたいことは何となしに分かる。自分の所在を知りたい訳ではない。どう言った理由で家付近の林の中にアホみたいな間抜けヅラしていたのかだ。
話しても良いが真実は信じてもらえるかわからない。いや寧ろ信じないだろう。さっき交通事故に遭って死にました何て誰が言って信じるのか。いやない。ない。
「あはー、たまたまそこらへん歩いてたら迷子になっちゃってー」
「ここら辺?下の街に行くのに歩いて1時間かそれ以上掛かるけど遊びに来てたのか?」
純粋に聞き返して来たその答えに作っていた笑顔が固まった。頬も引きつった感覚がする。どう考えても嘘だと思われるのにそんな純粋に答えられたら良心がチクリとした。
「(この人疑うことを知らないのか?つーかどう考えてと私と歳近いくらいなのに模索とか猜疑心持たないのか?)」
「つーか本当のこと言えよ。馬鹿かお前」
「あ!分かってたの!?」
「あったりまえだろ。お前みたいなひ弱そうなガキがここら辺に野暮用とか有り得ないからな」
「ガキって私はアラサー…あれ?」
男の突発的な発言に憤慨しながらも不意に立てかけてあった鏡を見やる。
死ぬ前の自分とは明らかに若くなっている様に見えた。まるで高校卒業後の時の様なあの頃の面影があったことにハッと息を飲んだ。
「アラサー?」
「…嘘だ」
「あ?」
「嘘だ!!!」
「だから何が!!」
これが5分くらい続いた。