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だいぶ慣れて来た。
修行…というか今のこのコース全般は息を余裕でつけて来た。最初は窒息死しそうだったし。足も生まれたての子鹿みたいな、ガタガタブルブル状態だったけど慣れってすごいよね。まだやれる。そんな気力があるほどしっかりと立てる。
息も荒くならなくて行動中も息を整えられるほど心の余裕が出て来たと。そして何よりスタミナもついた。生前でもといた世界でも体育なんて真面目にやったことさえなかったのに。つか運動神経かいむでしたしね。ずいぶん心身共に成長してきたような。やっぱリキさんもリリーさんもすごいな!一般人をここまで出来上がらせるんだもん。
「今日は日も傾いてきたし。暑いからそうめんでいいかなあ。リリーさん薬味多い方がいいかな?」
リキさんが旅立って2週間は過ぎた。どっかで遊んでなきゃいいけどなぁ。こっちは真面目にトレーニング積んでるからそんなんあればお説教の嵐だ。10倍になって帰ってくると思うけど。
リリーさんが女性でよかった。情緒不安定な時とか、女性ならではの相談ができるし。
デフォルメが無表情だとしてもそれなりに話は弾むし。女性としての心身にも気を使ってくれるし。いやあ、あんな鬼なんかよりよっぽどいいなぁ。修行はやりやすいし。
ピンポーン
ミョウガを切っていたら不意にチャイムが鳴る。リリーさん?な訳ないか。音もなく家に上がるし。あれ?だったら宅配便?こんなところまで来るのかな?サインでいいかな、違和感ないんだけど。
なんて簡単なこと思いなが手を軽く洗ってエプロンの裾で拭うと速足で扉に向かった。
ピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
ふぁ!?
幾ら何でも鳴らし過ぎじゃない!?客人だとしてもこれ失礼だよね!?ピンポンダッシュだったら地の果てまで捕まえてやるからな!
ピンポン連打にイライラしながら荒くドアノブを押した。文句言ってやる!聞こえてんだバカ野郎!ってね!!
「聞こえてんだバーーー」
「あ」
「ーーあ、」
直立不動した。頭が動かない。
今の今まで文句を言おうとした。喉まで来てた。実際言おうとした、のに何も言えなくなった。
「ーー…」
「リキ、居ますか?」
目の前の金色に目を囚われたのか、それともまた会えたのか、とか色んな思いが駆け巡って来て、もう二度と会えないかもしれないって思ってしまい。感動の再会の様にその胸に飛び込みたかったが、イケメンの口から思わしき言葉が出て来たのに目を丸くした。
「え?あ、り、リキさん…なら、その、ちょっと今家空けてて…」
たどたどしく言葉を紡いだ。恥ずかしすぎる!まず挨拶に「コンニチハ」だろ!いや時間帯的に「コンバンハ」か?そんなのはどうでもいいや。コミュ障すぎる口の利き方だな私…緊張し過ぎだろ。
そんな私の言い方にともかく、家を空けてるという言葉を聞いたシャルナークが今度は目を丸くした。イケメンはどんな顔をしてもイケメンだ。
「居ない、かぁ。どれくらい開けるかわかる?」
「それがよく分からなくて…ここ2週間は帰って来てません」
「うーんどこで遊んでるのか…。まあいいや。また来よう」
「えっ」
とりあえず平静を装いながら…いたいけな少女のような態度を心がけながら再会出来たシャルナークの言葉を聞いて素が出てしまった。素っ頓狂な声を出してしまった私は少しでも自分を偽らないのか…と自分にがっかりした。
変な声を出した私にシャルナークは見下ろす形で私を見た。何かあったのか?と不思議そうに翠色をこちらに向けた。
「え、あ…いやあ、少しお茶していきませんか?こんな山奥までわざわざ来てくださったから」
な に か ん が え て ん だ わ た し ! !
いくら知っている人物とは言え!馴れ馴れしいにもほどがあるだろ!相手がイケメンだから?いや違うよね!?こんな売り文句あります?でも私にしてはちゃんと言えたよねそこは褒めてね!
とわけのわからない葛藤をしていると「え、いいの?」なんて言葉が聞こえたからこれには頭真っ白になった。
「これカモミールティー?匂いが独特だけど優しい味だね」
「え?あ、はい。ちょっと熱めだったんじゃ…ないですか?」
「ううん。ちょうどいいよ」
リキさんにも煎れない滅多に出さない紅茶を手を震わせながら出すとイケメンは早速カップに口をつけてくれた。美味しいと微笑む彼はどんな格好をしてもイケメンだった。悔しい!
「俺の顔に何かついてる?
「え!…あ、や、何も…その…」
「うん?」
「、すいません」
正直な感想を言えなくてごめんねシャル。けど貴方が来てここでこうしてるなんて夢見てるみたいでもっと間近でマジマジと見て居たいくらいだよ。
…なんて言えねぇ。
ごにょごにょと口をごもらせていると小さく笑う声が聞こえた。
「君と会うの2回目だよね、覚えてる?」
「ーーーーあ」
「あ、やっぱり?そんな顔しちゃうよね。俺もびっくりしちゃった。まさかリキのとこにいる子だと思わなくて正直玄関で固まっちゃった!」
おかしそうに顔を歪めるシャルの口から出て来たのは意外なもので。
ーー2回目、って。私のこと、覚えててくれたんだなんて。変な期待を持っちゃったりして。それでもそんな風に言ってくれるシャルが優しくてたまらなくて。
「…私、貴方のことずっと覚えてました。綺麗な眼をしてるから」
「え?俺が?」
「はい。それに優しい声だし」
「何それナンパ?」
思わずはっと我に返った。私はアホか!何考えてんだよ!物は考えて発言しなきゃ!アホ丸出しじゃん!って言うかシャルからタラシのイメージつけられるし!本当にバカだな私は!
「え、ち、違います!これにはその…えっと…」
「ごめんごめん。あまりに真面目に話してたから思わずからかっちゃった」
笑いながら謝られても色んな感情が胸で交差するんですが。全くドキドキさせないでくれ!これだからイケメンは本当に困るんだよ。何をしてもイケメンだから…なんでも許されると思うなよ!!
「あ、名前なんていうの?俺はシャルナーク」
ごちそうさま、とカップとソーサーを持って近づいて差し出して来たそれを受け取る。綺麗な顔だと思いながら目を合わせられないと思いながら緊張気味に受け取ると、俯きながらでもできるだけ声になるように息を吸った。
「わ、私はナマエといいます。よ、よろし、くおねがしいます…」
語尾が少し小さくなるのを誤魔化すためにパッとソーサーごと受け取ると流しにことりと置いた。上手く自分の名前が言えただろうか。「なに?聞こえなかったんだけど」なんて言われるとショックで立ち直れない…!
「ナマエか。了解。お茶ありがとう。また来ていい?」
「え!?」
「?ダメだった?不都合あるならいいけど」
「あ、いえ、また来てください!」
「OK、またね」
ちゃんと言えた、自分の意思で。
そしてわかった。シャルは優しい。
「どうした?さっきから惚けて」
「…あ、すいません」
「とうでもいいがそうめん食べないなら私が食べるが」
「どうぞどうぞ!私もうお腹いっぱい胸いっぱいなんで!!」
「?」