※コロシアイなんてない平和な世界軸
※妹さんを少し捏造



紆余曲折あって天海君はなんとか12人の妹と再会することが出来た。文面だけ読むとまるでドラゴンボールみたいだね、と言ったらシスコンダメ兄貴の天海君は怒るので黙っておく。そもそも物じゃないし、数が5足りない。

話の大事なところは妹がドラゴンボールということではない。天海君の妹さんが見つかったことだ。私も何人か妹さんとお会いする機会もあった。年齢も様々だったけれど、共通して言えるのは兄も兄なら、妹も妹だった。要するに大体ブラコン。
そりゃそうだ。いきなりイケメンのお兄ちゃんが現れたら惚れてもおかしくない。ましてや血が繋がってないのもある。あれ、これなんてラノベ主人公のハーレムだろう。

天海君は妹さんに付きっきりになって、遊ぶ機会は少なくなってしまった。こうやって天海君と出掛けるのも久しぶりだ。目の前で一緒にお茶している洒落た男の顔をじっと観察する。顔よし、性格よし、3Kオールクリア。何だ、この男。死角がない。最近流行りのラノベなんてそんなにイケメンじゃない主人公も多くなってきたというのに、この男は。世界中の男から憎まれてしまうのでは?天はこの男に二物どころか三物ほど与えられてないだろうか。理不尽である。

「名字さん。そんなに見つめられると穴が開くっすよ」
「天海君はイケメンだから穴なんて開かない」
「どういう理論っすか……」
「さあ?ところで天海君は罪作りな男って言われない?」
「えっ」

おっと、このリアクションは自覚なしと来た。この天然タラシめ。その天然タラシなところも好き!……じゃなくて、数々の女の子を泣かせてきたんだろうか。でも天海君が女の子泣かせてる姿ってあんまり見かけない。そもそも天海君って滞在する期間短いから交流がないのかもしれないし、あったとしても一夜だけの恋と考えれば割りきれるのか?それはそれでギルティのような気もする。

「なんか俺か悪いことしたっすかね?」
「何もしてないから安心して。天海君を見てて感想がポロっと出ただけ」
「ますますよく分かんないっすよ」

ねぇ、知ってる?貴方の妹たちが貴方をハンティングしようとしてるの、と言えば間違いなく天海君のご家庭に悪影響が出るので「天海君はかっこよくてモテるね、って話」と誤魔化しておいた。「俺モテたことないっすよ……」と返答された。嘘つけ。天海君の恋愛経験に関しては絶対に信用しない。

「今日の名字さんは変っすね」
「変なのはいつものこと」
「それ自分で言っちゃうっすか」

ここで否定しないあたり、天海君も私のことを変だとは思っているようだ。間違ってないけども。
ズズズっとカフェラテを飲み干した天海君は空になったプラスチックのカップを机の端っこに追いやった。そして空いたもう片方の手を私のほっぺたに伸ばしてきた。何かゴミでもついていたのか?動かないでいたら感触を確かめるように指先で弄び始めた。

「何をするだー」
「名字さん、ぷにぷにっすね」
「やめろー。贅肉がー」

しかし天海君のつつく攻撃はやめない。ソフトタッチなので特に痛いということはないが……。リアクションに困る。これはどうすればいいんだろう。されるがままに任せていたら、ほっぺたを指先でぐりぐりし始めた。

「天海君、何がしたいの?意図が分からないんだけど」
「んー……。俺の勘違いかもしれないっすけど焼きもち妬いてるんじゃないかと思って」
「は?」

私が言うのもあれだけれど、何故その結論に至るのか。天海君の思考回路が分からない。謎すぎる。焼きもち妬いてるからほっぺた触るってなんで?ほっぺたが膨らむとでも思ったの?ほっぺたが膨らむのはハムスターぐらいしかいないんだけど。しかも焼きもち妬いてふくらまないし。
焼きもちなんて妬いてないと言っても天海君のことだ。そうなんすかー、よしよし。いい子っすねー。って言われる未来が見える。どっちにしろ私はペット扱いということに変わりはない。

「私が焼きもちを妬いていると、仮に肯定して。妬いてたらどうするつもり?」
「そうっすね、名字さんのお願い事でも聞いてあげるっすよ」

肩をすくめて目を瞑る天海君。その表情は不敵で、なるほど冗談なんだなと察することが出来る。冗談でもお願い事を聞くと言った天海君はだいぶ太っ腹な気はするが。せっかくだし、お言葉に甘えておこう。何がいいかな。冗談なら冗談らしく、出来れば予想よりちょっと斜め上のもので困るようなものにしてみよう。

「じゃあキスして?」

私の言葉に天海君はキョトンとした顔をした。これは意表を突けたかな?珍しい天海君の表情を見れた私はそこそこ満足した。例えて言うならドッキリ大成功!という感覚に似ている。あ、ネタバラシしないと。ここは王馬君っぽく「嘘だよー!」で行こうか。

「分かったっす」
「え」

実は嘘なんだ、という前に私の頬を天海君の手が撫でる。最初は指でなぞられて、徐々にごつごつとした掌に包まれる。指先がちょうど私の耳に当たって、ぞわぞわっと身震いを起こさせた。それに気付いたのか、天海君の指が私を耳の付け根を緩やかに這う。
くすぐったさと得体の知れない何かに身を襲われていると、天海君は上半身を机に乗り出した。私と天海君の顔がすぐ近くになる。いつになく真剣な表情をして。真っ直ぐな緑色の目を反らすかのように、私は強く目を瞑ってしまった。

どこかで寸止めしてくれるんじゃないか、という淡い期待は無様に打ち捨てられた。

触れる吐息と温もり。チュッというリップ音。目をおそるおそる開いたときには、何事もなかったように天海君座っていた。
感触を確かめるように天海君がキスした場所をなぞる。そこは唇の境目あたり、だった。

「……」
「顔真っ赤っすよ」
「まさか本気でされると、思ってなかった……」
「お願いごとされっちゃったっすから」

冗談のつもりだったと言っても天海君は知らなかったというだろう。キスなんて好きな人にやるものじゃないのかと言えば、そもそも最初から私がキスして?なんておねだりをしなければこんなことにならなかったと反論されるだろう。
何を言っても八方塞がりで、嫌じゃなかった自分がいて、ドクドクと心臓の音がやけにうるさい。

「天海君、キスするのは構わないんだけど、もっと他にする場所があったでしょ」
「唇っすか?」

そう言いながら顔を近づけてくるあたり、たちが悪い。「それは違う!」と逃げないで反論した私を誉めてほしい。「そういえば名字さん、耳弱いんすね。かわいかったっすよ」と屈託のない笑みで追い討ちをかけてくる。

「悪かった、悪かったから。最初にからかった私が悪かった。だからその乙女心をくすぐるような真似はやめない?」
「くすぐってなんかないっす、純粋に思ったことを言ってるだけっすから」

……これは本心?それともからかってる?どっちなんだろう。向かい合った男の顔をじっと見つめれば、にこりと微笑まれた。また心臓が軋んで、天海君という存在が私の中でグラグラと揺れ始める。すでに離れたはずなのにまだ頬に天海君の手が添えられている気がして、目の前にいる男がどこか憎らしい。




罪な男

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