人間生きている限り、食べなければならない。それは三大欲求と言われて、食べることなしに避けては生きられない。だから私が学校帰りにコンビニでうろうろするのも仕方ないことだ。
「あぁ……。どうしようかな……」
ケースに並べられた肉まんを見て私は悩んだ。上の段から肉まん、ピザまん、カレーまん。期間限定のレアチーズまんにあんまんとラインナップが充実している。
「あれ?名字さん」
この店の代名詞ともいえる有名な入店音を響かせて、真宮寺君が入ってきた。まさかの組み合わせに私はギョッとした。
コンビニに真宮寺君!?似合わない!
「へぇ、名字さんも買い食いするんだ」
「えっ、あ……。うん」
私が目を白黒させていると、ショーケースの前に立った私を見てそう思ったらしい。
真宮寺君は一体何の用があって来たんだろう……?えっ真宮寺君もまさか買い食い?
「何を買うの?」
「肉まんかあんまんかカレーまんかピザまん、後レアチーズまんで迷ってる」
「全部食べたいんだネ」
「そうなんだよ……。さすがに1個しか食べれないけど」
「それならいい方法があるヨ」
「何?」
包帯で丁寧に巻かれた真宮寺君の指先がすっと、肉まんを指し示した。
「どれにしようかな天の神様の言う通り」
真宮寺君の矛先が肉まん、あんまん、カレーまん、ピザまん、レアチーズまんと切り替わっていく。そして、「言う通り」と言い終わったところで真宮寺君の指はピザまんを突きつけていた。
「すみません、ピザまんとあんまん一つください」
「えっ、真宮寺君!?」
流れるように注文する真宮寺君に私は思わず止めようとするが、真宮寺君と店員さんの間で購入の処理がテキパキと進められていく。
「はい、名字さん」
コンビニから出たところで、薄茶色のレジ袋を手渡された。中にはピザまんと書かれた包み紙が入ったいた。手に取ると指先からやけどしそうに熱い。
「ありがとう……?あっ!お金!お金!払うよ!」
「構わないヨ。僕が勝手にやったことだからサ」
これは頑なに受け取ろうとしないんだろうなあ。 でもそれだと真宮寺君に申し訳ないのだ。
「次来た時奢ってヨ」
「そうだね、そうする……」
私の気持ちを読み取ったかのように真宮寺君はそう言った。
近くの公園に移動して、真宮寺君と私はベンチに腰かけていた。
「いただきます 」
隣の真宮寺君に倣って、私も手を合わせた。そしてピザまんをかじる。肉厚の皮はふかふかとしていた。歯を立てると、簡単に千切れてほんのりと小麦粉の甘みが広がる。後から奥にあったチーズとトマトソースが皮と絡み合って、絶妙なバランスで私の口の中で躍った。
「おいしい?」
「おいしい!」
「それはよかった。よかったらこっちも食べるかな?」
真宮寺君の指先にはご丁寧に紙ナプキンで挟まれたあんまんが一欠片あった。煙のように湯気が揺れているところから熱々なのが分かる。白い皮と黒い餡子のコントラストが食欲をさらに引き立てた。
「真宮寺君って神様なの……?」
「ククク、残念ながら神様じゃあないヨ」
私はありがたくいただいて、口の中に放り込んだ。
ピザまんより中の餡がとても熱かった。これ、真宮寺君がちぎって、冷気に晒してなかったらもっと熱かったんじゃないだろうか。
なんとか口の中で咀嚼して、熱を分散させていく。そして噛む度に甘さが舌先に染み込んでいくのだからたまらない。
「名字さんさァ、神様はいいことをしてくれると思ってるんじゃない?」
「違うの?」
「みんながそうじゃないヨ」
真宮寺君も残りのあんまんを食べ始めた。一欠片ずつ摘むその姿はたぶん、子供の頃から躾されてたんだろうなあと思う。やっぱり真宮寺君にコンビニで帰り食いは似合わない。
それと不思議なのが真宮寺君はマスクを外さないで食べていることだ。マスクの前に摘んだあんまんを持っていくといつの間にか消えていくのだ。モソモソと真宮寺君の口元が動いて、飲み込む仕草をしてるあたり食べてることは間違いないない。けど熱いはずのあんまんを普通に食べているし、大体どうやって食べているのかも分からない。
「自分のわがままで恋人がいるのに愛したり、勝手に攫ったり……。神様は身勝手だからネ」
それは人や自然をモデルにしたケースによく見られるんだけど……。と真宮寺君はそこで話を切った。そして私を見る。
「名字さんなら神様に攫われてしまいそうだ」
手を伸ばしてきた真宮寺君と私の間に木枯らしが吹いた。艶やかな真宮寺君の黒髪と、どこからか迷い込んだ銀杏や楓の葉が舞い込む。ほうっと私は見とれて息を殺した。
やっぱり真宮寺君は神様みたいな人だ。真宮寺君が神様ならそれでいいかもしれない。
(2017,11.19. )
君が神様なら
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