Clap


クリスマスはいつも一人でカードを眺める。

私の恋人は冒険家でいつも忙しなく地球のあちこちを回っている。日本にいる時間なんて短期間で、年に会った回数なんて片手で数える程しかない。

そしてクリスマスという恋人のイベントも2人で過ごしたことは未だになかった。代わりにいつもクリスマスカードとプレゼントが届く。プレゼントは当たり障りのないアクセサリー。クリスマスカードは 今年のクリスマスにいる国の写真を撮って、プリントアウトしたものというシンプルなものだった。

それでも私は惹かれた。教会で歌う天使の姿。時計塔に映し出された光で出来た雪の結晶。人とイルミネーションで溢れかえった街中。誰もいない満天の星空……。

きっと蘭太郎はクリスマスにこの景色を見ている。そう思うとこのクリスマスカードが宝物のように見えて仕方なかった。

「えっ?クリスマス、彼氏と一緒に過ごさないの?」

久々に会う友達に言われるまでそう思っていた。

やっぱりクリスマスに恋人同士で過ごさないのは変なことらしい。仕事だから仕方ないし、毎年律儀にプレゼント送ってくれるよ。と言うと、でも一緒にいたくない?と言われてしまった。

もちろん、そんなの一緒にいたいに決まっている。
でもそれは言ってはいけない。蘭太郎は束縛されるのが嫌いなのだ。蘭太郎はどこまでも自由に飛び回っていることを好む。私が蘭太郎にとっての止まり木であっても、鎖ではない。なりたくなかった。

それなのに今年はどうだろう。届いたクリスマスカードはどこかのホテルのエントランスだった。四角い紙に切り取られた風景は天井を見上げるようなアングルで撮影されたようだった。クリスマスツリーを象ったオーナメントが降り注ぐように彩っている。
そしてメッセージがたった一つ。メリークリスマス。それだけだった。

もう限界だった。クリスマスカードを今までのクリスマスカードが積み重なっているお菓子の箱へ無造作に入れた。押さえつけるように閉めても、私の気持ちは収まらない。

いつの間にかスマホを持って、アドレスから天海蘭太郎のページを開く。スマホの画面が天海へ繋げようとする。プツンと音を立てて、コール音が鳴り止む。

"おかけになった電話をお呼び出しいたしましたが、おつなぎできませんでした……。"

あぁ、そうか。つながらないのか。
蘭太郎じゃない機械音が私の耳元へ虚しく届く。

「会いたい」

もう繋がらないのなら。別れの言葉代わりにそれだけ言って携帯の電源を切った。









布団の隙間から潜り込んだ冷気で私は目を覚ました。昨日のことは全部夢でした、それだったらどんなによかったか。散々と泣き腫らしたせいで頭がまだ痛い。
なんだか二度寝するような気分でもなくて私は起き上がることにした。ちゃんと顔を洗って歯を磨こう。
布団から這い出したところで、私は立ち止まった。

「名前」

部屋に蘭太郎がいる。

「なんで」

前に合鍵を渡したから蘭太郎は部屋に入ることは出来る。でも仕事は?どうやってここまで来た?日本にいなかったよね?山ほど聞きたいことがあるのに、上手く言葉に出来ない。

「留守電、会いたいって。名前の声を聞いたら……。俺も会いたくなって抑えきれなくなったんす」

ごめん。と蘭太郎は私に謝った。謝るのは私の方だ。私こそ謝らなければいけないんだ。それなのに、言葉の代わりに目から涙が止まらない。

「……慌てて来ちゃったから、ディナーの予約とか何にも用意出来なくて。しかも俺は、今まで名前を放ったらかしにしてた最低な彼氏なんすけど」

それでも俺と一緒にクリスマス過ごしてくれますか?

その言葉を聞いて、私は何も言わずに蘭太郎に抱きついた。蘭太郎が優しく受け止めて、私の背中に手を回す。ひやりと冷たい蘭太郎の体温と私の暖かい体温が溶け合って、ようやく一つになっていった。



(2017,12.17. )

君ありて幸福

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