鬼道有人

「こうやって 大人になっていくのだろうな」



有人は私の横でぽつりとそんな言葉を吐いた、代表には戻らないらしい彼は抜け殻のようにぼんやり沈み出した空を見る。



「俺がやった事は間違いだったのだろうか」

「それは人によるかな」

「それもそうだな」



あの青いユニフォームを脱いだ日から不幸な少年の様な顔になってしまった有人になんて言ったらいいのか分からなくて、私は飲みかけのジュースにまた口をつけた。



「でも、あんな大会に出続けなくて正解だったかも」

「何故だ」

「ラフプレーばかりの相手選手から傷だらけで勝っても何も残らないよ、私達が愛してきたサッカーとは丸っきり別物 今までは相手も本気こっちも本気 だから勝利に意味があったんじゃない」



我ながら生意気なことを言ってしまった自覚はあるけれど、真剣にサッカーを愛してる彼があんな連中にこれ以上傷付けられるのなんて耐えられなかったから 彼が日本残留するという答えには大賛成だった。



「...それでも、俺はアイツらと世界で羽ばたきたかった」

「きっと大丈夫 高校でもまたサッカーをやって、円堂君達と日本代表として世界に行こうよ」



なんの慰めにもなってないけれど少しでも彼が楽になってくれたらイイなと私は元気よく笑ってみた、そんな痛々しさが伝わってしまったのか無理矢理口角をあげる有人。

河川敷のベンチで私達は同じタイミングで空を見上げる、通り魔の様に私達を切り付けて去っていった人間達は今頃楽しそうに笑ってるのだろうか。



「雷門イレブンに会いたい」

「...俺もだ」



大人達に奪われた青春はかえってくることはないのに、彼等はがむしゃらに生きる事を選ぶ。そんな男の子の背中を優しく撫でて押してあげることが出来るのは女の子の役目だよって秋ちゃんが言ってたな。

彼女の言葉を思い出して 私はそっと、彼の背中に触れた。





20190319(それでも生きていく)