ギムレット

中学生の頃、円堂君はサッカーサッカーサッカーと 馬鹿みたいに私じゃなくてサッカーボールを見つめる毎日に耐えられなかった...そして別れを決意した遠い昔のあの日。

鈍感でバカだったけど...この世界で一番大好きだった円堂君とあの日別れを告げずに付き合っていたら今頃 隣には夏未じゃなく私が居たんだろうな。









忘年会に来た円堂君達夫婦はすごく幸せそうで涙が出そうになった。



「よぉ〇!久しぶりだな!!」

「円堂君久しぶり 夏未も元気そうね」

「えぇ◎も元気そうで何よりだわ」




元気なわけないでしょ、円堂君の横で笑っている夏未は本当に綺麗になった。結婚してもっと綺麗になったんじゃないだろうか、無意識の内に煙草に火をつけていた。

忘年会も終わりの時間になり、皆店を出た。勿論 円堂君の隣には夏未が居て、酔ってふらふらになっている円堂君を支えて困ったように笑った夏未。そしてキスをしていた、見せつけるなんて最低だよ…。













それから三か月が経ったある日のこと。円堂君から「今日飲みに行かないか?」と電話が来た。骨の中まで燃えた気分だ。心から愛している人と久々に二人きりで会えるなんて...中学生以来だこんなに胸が高鳴るの。


指定されたお店に行くともう円堂君は居て、二人でビールを頼んだ。後は適当に注文して円堂君を見つめた。



「どうしたの?呼び出して」

「いやぁ…あのさ、夏未といろいろあってさ」

「色々って?」



もしかしたら喧嘩でもしたのか?付け入る隙は逃したくない 正直不倫でも何でもイイから、私と今夜一緒に居たいって言ってほしい。



「いやー将来の事とかでさ…子供が欲しいって言われたんだけど、俺...なんて返せばいいかわかんなくってさ」



私が期待していた言葉ではなかった、がくんと肩を落としながらも 私は微笑みかけた。



「円堂君はどうしたいの?」

「いやー そりゃ夏未の事はスッゲー愛してるし夫婦から家族になんのは幸せなことだと思うんだけどさ...」

「うん」

「なんか今は子供要らないっていうか…夏未にこれ言ったら傷つくかな、と思って」



ぱりんと割れたのは私の心だ、傷付けたのは夏未ではなく私。...円堂君は成長したんだね、中学生の頃とはまるで違う、男の顔をしてる。



「ごめん、ちょっと化粧室行ってきていい?目にゴミ入っちゃったみたい」

「あぁ...」



トイレに入り抑えていた涙を流した、ウォータープルーフではないマスカラのせいで真っ黒な涙が落ちた。なんで私にあんな話するの?



「なんでよ…」



トイレの壁に掛けられている時計の針の音が私を刺した、壊れそう。だけど どうしようもない...円堂君が大人になったように私も大人にならなくちゃいけない。

水でゴシゴシと目元を軽く洗ってハンカチでふき取った。流れた涙が少しだけでよかった…深呼吸をして笑った、円堂君が待ってる。



「ごめんね」

「大丈夫か?」


一気にビールを流し込んで、ギムレットを頼んだ。喉を突きさすような味は まるで私の恋心のようで...飲み込む度に 心臓をえぐられた。



「さっきの話…夏未が焦るの無理ないよ」

「え…?焦る?夏未が?」


「そうだよ、まだまだサッカーバカの円堂君が自分の方に向いてくれないから不安なんだよ、夏未は」

「そうかぁ…分かったありがとな」



私の大好きな太陽のような笑顔に私もつられて笑った、胸の痛みに 今にも死んでしまいそうだったけど...もう大人だ。

長くて大変だった この恋は、今日で終わらせよう。




20131222
⇒修正 20180418

結婚してしまった円堂は遠くに行ってしまった人、そしてギムレットのもう一つのカクテル言葉は”長いお別れ”。そしてシェイクせずに氷の入ったグラスに入れるとジンライムになるんですけどそちらは”色褪せぬ恋”という意味になります。