「久遠監督」
「〇」
雷門の卒業式が終わってから私は久遠監督の元に向かった、イナズマジャパンが解散してからしばらく会っていなかった久遠監督にどうしても会いたくて頼み込んだ。風に揺られて久遠監督の短い髪は優しく揺れる、藤みたいな綺麗な紫に私の気持ちが膨らんだ。
「久遠監督、さっき 卒業式終わったんです」
「おめでとう 次は高校か」
「はい!」
「サッカー部は大丈夫だったのか」
「明日改めてみんなで集まってパーティーするみたいです」
「それで今日はないのか、明日私も呼ばれている」
どきん 今日出会えるの最後かななんて思ってたから、切なく胸が痛い程ときめいた。
「それで 話しってなんだ」
「...その」
15歳の女の子に告白されるなんて久遠監督は夢にも思ってないだろう、急に引きずり出された羞恥心に耐えて私は一歩一歩監督の元へと近付いた。
「私ずっと、久遠監督の事が好きでした」
「...好き?」
心底驚いた顔をする久遠監督、初めて見るその表情に私は泣き出しそうになった。開きかけの桜達は哀れそうに私を見つめる、次の言葉を言わないと...と思えば思う程にパニックになってしまった。
「その、あの...好きでしたって 伝えたかったんです...ごめんなさい、」
寡黙な人だから仕方が無いけど、何も言わずに黙りこくってしまった。どうするのこの空気感...。
恥ずかしくて両手で顔を隠せば 久遠監督の香りが強くなって、温かい手のひらが頭の上に乗せられた。
「監督...?!」
「別に謝らなくていいだろう」
「困らせちゃうの分かってたから、くるしくて」
泣き出しそうになるのを我慢して少しだけ上を見れば優しい目で笑う久遠監督の顔、フラれるのにそんな顔みちゃったら私...諦めきれない。
「〇、ありがとう わざわざそれを伝えに来てくれたんだろう」
「言っても言わなくても苦しむんだったら、言って苦しみたくて...」
「そうか」
「聞いてくれて ありがとうございました、監督」
重っ苦しかった胸が少しだけ軽くなった気がする、ぺこりと頭を下げて元来た道を帰ろうとしたら グイッと大きい手に引っ張られた。
「待て」
「え...?」
「私の返事がまだだろう」
返事?初めて聞く言葉みたいな反応をしてしまった、久遠監督は私を元いた場所に戻して 小さくため息を吐いたあとに優しく笑う。
「返事って、」
「お前の気持ちに答えたいと言ったら、嫌か?」
久遠監督が言っていることを理解するのに時間がかかってしまった、私は走り出しそうになった心を無理矢理落ち着かせて必死に首を振れば 久遠監督は呆れ顔で笑う。
「18歳になるまでは手を繋ぐ以上の事は無しだ、分かるな」
「は、はい!」
「誰にも言えない恋になるが、それでもいいのか」
「...いいです」
ぱちぱちと忙しなく動かしたまぶたが痙攣している、目の前の恋が実っていく様子に私は頭おかしくなっちゃったのかな...と自分が不安になったが 思わず泣いてしまった涙を拭ってくれた優しい指の熱が本物だと気付いて涙を止められなくなってしまった。困り顔の久遠監督に「わたし、本当に好きだったから...うれしくて...止まらない」と情けないことを言ったら、彼は嬉しそうに「早く泣きやみなさい」と笑った。
20190317