テラス席の彼

彼の名前を私は知らない、この世の酸いも甘いも知り尽くしたみたいな目や 少し太めの眉 形のいい不機嫌そうな唇からは「カフェラテを アイスで」 と 短く優しくもなければ冷たくもない難しい色の声が。テラス席で本を読む彼は もうこのカフェに三日連続来ている。

一日目は無かった黄色いしおりは二日目に真ん中にあった その小説を今日読み切るのだろうか、赤に近いピンク色の髪が風に揺れた。



「お客様 お待たせ致しました、カフェオレのアイスです」



少し厚い紙のコースターの上に、優しい色のカフェオレを置いた。



「ごゆっくり お寛ぎ下さいませ」

「ありがとう」



私よりもうんと若い彼は大人の表情を見せる、シロップもいれずに ほろ苦いカフェオレを半分程飲んだ彼は また本を開く。後20ページ程で小説を読み終わりそうだ...読み終わったらもうこのカフェには来なくなるのだろうか。

淡い桜色のパラソルと同じ色の 恋をしている。ミステリアスな彼を知りたくて 年上なのに私は...こんな少年に恋をしているのだ。笑ってしまう。

テラス席に座り本を読む彼、映画のワンシーンみたいだ。あの本は どんな話なんだろう、眉一つ動かさない彼に 内容が気になってしまって 仕事に集中できない。



「すみませーん!」

「あっ...少々お待ちくださいませ!」



お店の奥にいつも座る上品そうなマダム達の甲高い声に ハッとして 私は伝票を手に足早にテーブル席に向かった。後 2時間でバイト終了だ、集中しなければ...。














一気にお客様がひいて この店には あの少年を含めて3組しかいない、休憩に行ってしまった他の従業員 今私しか居ない。

ふぅ ともう後数分で終わる仕事が嬉しくて、にやっと笑ってしまった。そして 顔を上げると...ピンク色の髪を撫でながら 彼が近付いてきた。



「お会計を」

「ありがとうございます、お会計は 475円でございます」

「これで」



500円玉を銀のトレーにのせて、彼は私の顔をじっと見てきた。ドキッと 体が跳ねてしまい 500円玉を落としてしまう、「申し訳ございません...!」と上ずった声を出す私に 唇に指をあててクスリと笑う彼。



「そんなに 慌てなくてもいいのに」

「いえ...その、お客様が あまりにも見てくるので..!」

「いつもは、店員さんの方が見てくるのに?」


「そ、れは...本が 気になってしまって...」



25円を彼の綺麗な手のひらにのせて、私は 俯いた。恥ずかしい...バレていたなんて...!



「ふーん 本がね、じゃあこれ貸しますよ」

「え?」

「面白いですよ、これ」



彼が先程まで読んでいた本が私の手の中に...こんな!少女漫画みたいな展開 この世の中にあったんだ...。



「あ、あの!お名前...は...、?」

「野坂悠馬、また来ますね 〇サン」



野坂悠馬と名乗った彼は私の名札をチラッと見て、春の風のように 爽やかに去っていった。私は退勤時間になったというのに しばらくレジから離れることが出来なかった。





20180403