手作りの人生

泣き出しそうな空なんて分からないし見た事ないなぁ、そんなことを考えながら試合の後ぼんやりと空を見上げた。



「お疲れみんな! しっかり休めよ!」



円堂さんの声で我に返り俺はシャワールームへと向かう、喉が渇いた お腹も空いてきた。今日も確かに俺は生きている。

今日もサッカーが出来た、本当に楽しい時間はすぐに終わってしまうな。



「あっ、野坂くん!待って」

「〇さん どうしたんだい」

「今日合宿所に戻ってから時間貰えるかな?」



大体検討はつくけど 何も知らないって顔をして俺は彼女に笑いかけた、最近付き合ったばかりの〇さんは嬉しそうに頬を丸くするように笑を漏らす。


可愛らしい 1日に何回かそう思わせる〇さんの魅力は俺以外も感じてるだろう、シャワールームのドアを閉めて 俺はユニフォームに手をかけた。













合宿所に戻ってから彼女は俺の部屋で俺を見張るようにベッドに腰掛けている、そわそわ落ち着かない様子で足をふらふらと動かす。

〇さんのそんな様子がおかしくて 俺はくすりと笑った。



「野坂くんなんで笑ったの!」

「いや 分かりやすいなって」

「...バレてる??」

「バレバレだよ」



みんなしてサプライズパーティーなんて変だよ、そう言えば彼女は楽しそうに笑った。




「野坂くんは今まで色々あったから特別なお誕生日にしたいんだよ」



照れ臭そうに彼女は言った。

きっと優しい心から何気なく出てきた詞なのだろう、親がいて 帰る家があって 友達がいる そんな人間にとってはその言葉がどれほど残酷か分からないのだろうな。



「もう腫れ物のように扱うのはやめてくれ」



少しだけ 自分でも気付かない内にキツい口調になっていた、みるみる内に悲しそうな顔になる彼女。



「ごめんなさい」

「そんな顔させるつもりじゃなかったんだけど、ごめんね」



しゅんと落ち込んでしまった彼女の肩に手を乗せた、男でもない女でもない 少女の細い肩 俺とは違う彼女の小さな肩をゆっくりと撫でて引き寄せる。



「君の事が好きだよ」

「野坂くん」

「人を好きだって言える、そんな事誰でも出来るって思うだろう でも俺にとっては特別なんだよ」

「...ごめん、泣きそう」

「俺のせいで泣いている君は嫌だな」



ゆっくり眉を落とせば彼女は大粒の涙を俺の部屋の床へと零す、



「人が生きることは 綺麗なんだって、君やみんなが教えてくれたから 俺はこれからも生きるよ」



母親と俺を繋げていたこの4月2日。

俺が死んでも俺の母親はあの人だけで、あの人の息子は俺だ。俺が幸せになる権利があるように、あの人にも幸せになる権利がある。

どこかで笑っているといいな。
彼女の泣きながら笑う顔に あの人の影を重ねてみた、涙は出ないけれど 少しだけほんの少しだけ胸がちくりと痛んだ。

変な顔をしてしまっただろうか、彼女は俺のそんな顔を見て 小さな手を俺の頬に這わせて口を開いた。



「野坂くん、こんな言葉 嫌かもしれないけれど」

「何かな」

「誰かと幸せになりたいって初めて思ったんだ、私 野坂くんとずっと笑ってたい」

「...本当に俺なんかでいいのかい」

「むしろ 私でいいのかって聞きたいよ」

「馬鹿だな 俺は君だから幸せになりたいって思うんだよ」



俺の頬に触れている小さな手をぎゅっと握った、〇さんは正しい息の仕方を教えてくれる 二人の間には確かな愛があってそれがとても心地良い。

幸せだ、俺は 今が幸せだ。



「野坂くん そろそろ、食堂に行こう」

「あぁ」



はにかむ彼女、手を握り直して俺達は二人足を揃えて ドアを出た。こんな世界が産んだ犠牲だと自分達をそう呼んでいた、そんな日々にさよならを告げ新しい俺として仲間達と生きよう。


食堂の前で足を揃えて立ち止まる、中からワイワイと楽しげな声が聞こえる、彼女に視線を向けてから俺はドアを開けた。



「野坂!誕生日おめでとう!」



クラッカーの音、いつもよりも豪華な食事の匂い、季節外れのスイカ、そして満面の笑みの円堂さんの周りにいる色んな表情をしている仲間達に釣られて俺は笑った。







20190402(野坂くんお誕生日おめでとう)