「有人、本当にあれだけで良かったの?」
「あんな事件を大人が起こせば、ただでは済まされないだろうが、今はまだ子供なんだ。俺も、一星もな。責任なんて取れないし、取らすことなんて出来ない内から憎んでいたら疲れるだろう」
わざと大人びた顔をして有人はベンチに腰掛けた。プシュッと音を立てて私達は同じ色の缶ジュースを開ける。
「あんな事、許される事じゃなかったのに、よく許せるよね」
有人だって怒りを消化したのに……。
なんで当の本人じゃない私が怒ってるんだろう。有人も、はたから見たら酷い事をしたのかもしれない。だけど謝らなかった。それでいい。誰がなんと言おうと、彼が正しいと思ったことが正しいことなのだから。 柔らかいドレッドと私の少しパサついている毛先が風に揺れた。同じ香りの風を感じているはずなのに、なんだか心が少し遠くにあるみたい。
「それは……俺だって悔しかった。試合、いや……ベンチにすら座れず、アイツらがフィールドを駆け回っている姿を画面越しに観ないといけなかったんだ、何度も歯を食いしばったさ」
「ゆうと」
「……ッフ、そんな顔しないでくれ。こんな話お前にするべきではないな……久しぶりに会えたんだ、もっと楽しい話をしようじゃないか」
コツン……と、私の履いてるスニーカーに、自分のスニーカーの先を当てる有人。会わない間にまた少しだけ成長したようだ。ほんの少し、背も伸びたように感じる。
「お前、少し痩せたか」
「急に何よ」
「髪も傷んでいる、唇も少しだけ荒れているな」
「……なんでそんなに気付くの怖いよ」
彼が居なくなってから、寂しさであんまりご飯を食べなかった。後は、身だしなみを気にしなくなった……。リップひとつ塗っていない私の顔をまじまじと見つめる有人に、羞恥心が炙られ、私は彼から目を逸らす。
「見すぎだよ……」
「久しぶりにお前の素肌を見たな」
目を逸らすことなく、私の頬に指を伸ばす。
ジュースの缶のせいでひんやりと冷えた指先が、私の頬から目尻を撫でた。
「会いたかったぞ」
「私も会いたかったよ」
「目の下が黒いな」
「だって、有人が……二度とサッカーできなくなったらどうしようって毎晩考えてたから」
「心配をかけたな」
「ううん、有人の元にちゃんと大切なものが返ってきたからいい」
彼を押し倒しそうな勢いで、抱き着くと、少しだけ逞しくなった胸板で私を包む有人。嗅ぎ慣れた優しい香りがして 、私はぐりぐりと頭を擦り付けた。
「静電気で髪が傷むぞ」
「いいの明日からまたちゃんとケアする」
「俺が居ないから怠っていたな」
「バレちゃった?」
「ああ、お前の事ならなんだって知ってる」
暫くの沈黙の後、私達は子供に戻って笑った。
手を繋いで、二人の全然違う体温を感じながら私達は抱き合う。「再会の夜っぽくてなんかいいな」そう言うと、有人は私の額にキスをして「ああ……だが、もう二度とあんな離れ方をしたくはないがな」と心底嫌そうな声を漏らした。
20190310