X.O.X.O.

 お正月太りで少し体が重いなぁなんて思いながら一郎君がお店に忘れていった荷物を届けに”萬屋山田”と書かれた建物のインターホンを鳴らす、奥から足音が聞こえてきて一郎君みたいに落ち着いてる足音じゃないなぁと待っていたら中からキャップを被った男の子がひょこりと顔を出してきた。

「お客さん?」
「あ、違うんだけど 一郎君に用があって」
「兄ちゃんに・・・?」

怪訝な表情、一郎君はいつも一人で来るから仕方ないか・・・。もしかしてファンの女の子だと思われてるのかな。

「あの、今いるかな一郎君」
「いるけど会わせられない、客じゃないなら誰だよ 兄ちゃんの何?」
「えっと」
「二郎〜誰か来たのか・・・って、あれ?◎どうしたんだ?」
「一郎君、これ忘れていったよ大事なものでしょ」
「悪い悪い 届けてくれたのか」
「うん、まぁ近いしね」
「兄ちゃんの知り合いだったのか・・・ごめん、俺 綺麗な女の人だったからまた兄ちゃんを狙ってる女がきたのかと思って」
「オイオイ早とちりすんなって二郎、そうだ よかったら茶飲んで行けよ」
「えっ そんなの悪いよ」
「いいって ほら」

そう言って一郎君は私の手首をぐいっと引っ張って強引にお家に招いてくれた、キャップを被った二郎君は少し照れ臭そうに私をソファーに案内して台所に向かう。

「一郎君、悪いよ・・・」
「いいっていいって マスターからたまにサービス貰ってるし」
「ごめんね、なんか ありがとう」
「二郎 冷蔵庫に昨日の依頼人さんから貰ったケーキあるから持ってきてくれ」
「うん兄ちゃん」
「俺、三郎呼んでくるから二郎ちょっと頼むわ」
「えっ 兄ちゃん」
「一郎君?」

爽やかな笑みを浮かべて私と二郎君を置いてどこかに行ってしまう一郎君、ちょっと気まずいなこれは・・・。

「えっと、二郎君?って呼んでいい?」
「えっ あぁ、いいけど・・・アンタは?」
「◯◎、よろしくね」
「おう・・・」
「二郎君っていくつ?」
「17」
「そうなんだ、高校生だよね 楽しい?」
「まぁそこそこ はいこれ、女子って何が好きかわからないから苺いっぱいのってるのにしたけど・・・アンタこれでいい?」
「うん ありがとうね」

お互い目が合って少し照れ臭そうに笑った後、一郎君とさっきの二郎君みたいに怪訝な表情の一番下の弟君が来た。

「誰ですか、一兄」
「俺がいつも世話になってる喫茶店のマスターの娘さんの◎、俺の大事な仕事道具届けてくれてさ ちゃんと挨拶しとけよ」
「・・・初めまして、山田三郎です お会い出来て光栄です」

まるで仮面でも取り替えたみたいににっこり笑って私に手を伸ばす三郎君、悪い子ではないんだろうけど変に大人びている所が少し怖いな。ちらりと二郎君を見たら真ん中に座って箱からケーキを取り出していた。

「兄ちゃんはこれ好きだよね」
「おう、ありがとな」
「三郎はこれだろ」
「・・・低脳のくせによく覚えてるじゃないか」
「俺はこれ」

5個ある内の一番小さいタルトを選んで二郎君は私のケーキを乗せたお皿の横に白い箱を置く。

「・・・これ◎にお礼」
「そうだな後一個しか残ってないし、持って帰って食べてくれ」
「あ、ありがとう」

ちらりと見たら私が食べてるのより大きいフルーツたっぷりのケーキが入っていた、これ食べたらいいのに・・・お兄ちゃんと弟に大きいのあげて自分は小さいの選んだんだって少し心臓がキュッと縮んだ。

「ありだとう、家帰って頂くね」
「おう!」

一郎君はにっこり笑ってケーキにフォークを突き刺した。


 カランと少し古びたドアベルが鳴る。

「いらっしゃいませ、って二郎君」
「・・・一人なんだけど」
「カウンターかテーブル席どっちがいい?」
「どっちでも」
「じゃあココ、うちで一番いい席」
「ありがと」

ジャラッとアクセサリーが揺れた音がした後椅子に座りテーブルの上に携帯と財布を置く二郎君、寒いから氷を少なめにしたお冷やと常温のおしぼりを出せばじっとメニュー表を見てから「これとこれ」と綺麗な指を滑らす二郎君。その綺麗な指に少し見惚れていたら彼の少しだけ困惑した声が私を現実に引き戻した。

「聞いてる?」
「あ、ごめん えっとコーラとハムサンドだよね」
「・・・コーラとタマゴサンド」
「ごめん・・・」
「完璧そうな見た目しといて、結構おっちょこちょいなんだな」
「そんな事ないよ 待っててね、すぐ作るから」

さっきまでごちゃっと常連客で賑わっていた店も今や私と二郎君しかいない、サンドウィッチとコーラを二郎君の前に置けば彼は目を輝かせてタマゴサンドに手を伸ばした。

「美味い!」
「本当?今日の仕込み私がしたんだけど、卵サラダしおからくない?」
「ちょうどいい」
「そっか良かった、今日はご飯食べに来てくれたの?」
「それもあるけど アンタにまた会いたくて」
「えっ」
「なんだよ」
「それってどういう」
「どうって・・・え、違う そういう意味じゃ」

かぁぁっと二人して顔を赤らめて目をそらす事が出来ずにただ見つめ合う、風が窓を叩く音で一瞬我に返るも熱い耳も頬もどうしようもないくらいドキドキしてる心臓が自惚れるなよって笑ってる。

「ごめん、変な事言って」
「ううん 嬉しいよ二郎君みたいに良い子に」
「良い子?」
「うん、良い子だって自分で気づいてなさそうな所も」
「はぁ?」
「気にしないで」
「気になんだろ」
「今度教える」
「早く知りてぇ」
「うーん、じゃあ今度デートする?」

ちらりと机の上に置かれた携帯を見れば彼はパチパチと何度か瞬きしてから「おう」と照れ臭そうに携帯に綺麗な手を伸ばした。





 連絡先を交換してから数日が経った、毎日他愛のない事を話してお互いの事を少しずつ知っていく関係、なんだかむず痒くて楽しくて気が付けば携帯を握り締めて寝るまでになっていた。

「なぁ兄ちゃん、これ変じゃない?」
「どうした二郎さてはデートだろ」
「げっ、なんで分かるんだよ〜!」
「最近お前ずっとポヤポヤしてたしな」
「気持ち悪いくらいでしたよね一兄」
「気持ち悪いってなんだよ!」

べえっと舌を出して

「変じゃないから行ってこい、でも二郎忘れるなよ」
「なに、兄ちゃん?」
「俺達 特にお前は敵が多い、女の子守ってあげれるか?」
「・・・当たり前だろ、絶対守る」
「ヨッシ!じゃあ行ってこい、晩飯は?」
「あ〜決めてない」
「じゃあ連れてこい、三郎と作って待ってるから」
「え!?一兄!?」
「良いの?兄ちゃん」
「僕は嫌ですよ一兄!」
「なんでだよ〜 お前見たくないのか?二郎の彼女」

兄ちゃんも三郎も知ってる相手なんだけどな・・・。
言うか言わないか悩んでいたら時間になってしまった、マフラーと財布と携帯と鍵を手に持って「行ってきます!」と玄関を飛び出した。


 待ち合わせ場所に到着すれば曲を聴いてるのかぼーっと空を見てる◎がいた、近寄ってイヤホンを抜けば「ひっ」と小さい悲鳴を漏らして目をまん丸にする。

「お待たせ」
「びっくりしたぁ」
「ごめん 流石に体に触れないし・・・」
「いいの、ありがとうね」
「えっと どっか行きてぇ所ある?」
「お昼ご飯食べた?」
「あ、ごめん ちょっと遅めだったから食べてきちまった」
「良かったぁ 私もお腹空いちゃって実は食べてたの、今からまたランチしちゃったら太るとこだった」

楽しそうに笑った◎にギュッと心臓が縮む、可愛い、女子にこんな感情を抱いたのは初めてではなかったけれどいつもみたいな可愛いじゃなかった。

「そういえば、この前言ってた映画 まだやってるなら行くか?」
「よく覚えててくれたね 行きたいかも、いい?」
「今日そのつもりだったし、そうだ 今日夜兄ちゃんが晩飯に連れてこいって言ってんだけど大丈夫?」
「晩御飯?」
「うん」

俺の顔をマジマジと見た後ぽんっと何かが爆発したのかってくらい顔を赤く染める◎は両頬を手の平で包んだ。

「なんだよ・・・」
「なんか、付き合ってるみたいで 急に照れちゃって・・・ごめん」
「いや俺こそごめん、付き合ってもねぇのに」
「違うの 嬉しくて」
「え?」
「二郎君みたいな子が彼氏ならいいなぁって思ってたから、あの・・・行こっか映画」
「・・・◎待って」

グイッと引っ張ればバランスを崩した◎が俺の体に凭れ掛かる。

「二郎君?」
「あの、アンタが良かったら・・・付き合って、くれねぇか・・・?」
「えっ」
「ダメか?」

俺今どんな恥ずかしい顔してんだか知りたくねぇけど目の前にいる女の顔がケーキの上にのってるツヤツヤにコーティングされた苺みてぇになっていく様子を見れば、俺もきっとこうなってんだろうなって下唇を噛んだ。

「二郎君」
「なに?」
「私も、気になってたの二郎君のこと」
「本当か?!」
「うん だから、私も付き合ってほしい」
「・・・スッゲェ嬉しい」

気が付けば身体が先に動いていた、俺は冷たい冬の空気を殺すようにギュッと彼女を抱き締めて自分の腕の中に閉じ込める。

「二郎君!」
「ごめん、勝手に触って」
「・・・それはいいの でも恥ずかしい」
「離したくないって言ったら怒るか?」
「怒れないよ」

恐る恐る下を見れば恥ずかしそうに俺を見上げる彼女、ちょっと路地に近いからか人が居なくて助かった、俺は何かに突き動かされてキスしてしまいそうになった。その時、コツンと帽子のツバが◎の頭に当たって一瞬時が止まった。

「ップ、ごめ 俺」
「ふふ いいよ、何も見てない」
「それはそれでムカつく」
「ごめん、映画行こっか寒いし」
「・・・おう」

どっちからとかそんなの関係なしに俺達は手を繋いで映画館の方へと足を伸ばした。