俺が勝ってる時に現れるこの女は健康的な丸みをちいせえ服に入れて、綺麗に整えられた眉毛を少し上にあげ俺に微笑みかける。最初は金狙いかと思って無視していたが女は絶対に俺に声を掛ける事はないし、勝ってる時以外は賭場場にいない。迷信なんざ信じてねえけど、それはまるで勝利の女神の様だった。
「オイ」
くるりと振り向き女は上着を羽織直すと不思議そうな顔で俺を見る。
「お前何者だ?」
「急に何?」
「お前、俺が勝った時だけ現れるしなんかブキミなんだよな」
「ブキミィ〜?」
「なんだよその顔」
「だって、不気味って酷すぎでしょ 帝統」
「あ?なんでお前俺の名前知ってんの」
「昔一回泊めてあげたじゃん、私のベッドにゲロ吐いたでしょ まあそんなの私だけじゃないだろうけど」
「・・・・・・何となく思い出した」
そういえば勝って機嫌よくて、乱数と幻太郎と酒飲んで潰れて道端に転がってたら女が拾ってくれた気がする・・・。ベッドに吐いたってのにゲラゲラ笑って許してくれた女がいたなそういや、目の前の女をじっと見れば確かこんな輪郭だった気もする・・・と脳みそが頷いた。
「あん時はありがとな・・・」
「いいよ 私も楽しかったし、デッカイ野良猫拾ったみたいな気持ちで」
俺達は気付けば賭場場を出て夜風を髪の毛に絡めていた、賭場場の前にドカンと置いてあるデッケーバイクに女は跨って俺を見る。
「おい、それお前のか?」
「当たり前でしょ さすがに盗まないわよこんなデカいの」
「帰んの?」
「・・・ねえ、海行かない?」
「海ぃ?」
「ほら後ろ乗って」
「おう・・・?」
▼
1時間弱走らせて着いた海は当たり前だけれど誰もいない、静寂の中砂を踏む私と帝統の足音が小さく響く。靴を脱いで海の中につま先をつければ後ろから帝統の「お前、風邪ひくぞ」なんて呑気な声が聞こえてきた。
「帝統」
ぐいっと引っ張って靴を履いてる状態の帝統を海の中に引きずり込んだ。
「お前!さみぃだろ!」
「折角海来たんだし」
「今冬だぜ、出るぞ」
「待って」
師走の海は流石にキツイなぁ、私は帝統と震える体を海に沈める。世界で二人きりみたいな気分、深海にも天にも行けない私と彼は百戦錬磨の殺人鬼のように冷たい海に溺れるようにキス、彼のカサついた唇と私のオイリーなリップグロスが触れ合う嫌な感触すら愛おしいなんでどんな魔法だろうか。
ぬくい舌を差し込めば海水が私と彼の舌を焼く、溺れていく様な漂っている様なそんな私達は何度も何度も角度を変えてキスをした後息苦しさに耐え切れず海から顔を出した。
「さっみぃ〜〜〜〜」
「死ぬのが嫌になるくらい寒いね、帝統」
「はぁ?!お前死ぬ気だったのかよ」
「分かっててきたんじゃないの?」
「やめろそんな事」
「何あんた、私のママ?」
ぐっと掴まれた頬、キスの余韻が残る下唇、どちらも冷たいはずなのにあたたかくて口元が緩んだ。
「冗談だよ ドキドキしたでしょ」
「・・・なんだよ心配しただろ」
「ごめん」
「てか、出ねえ???寒くて死ぬ・・・」
「ライターある?って多分駄目になってるか」
「俺、石と木の枝で火つけれる!」
「変な特技だね」
「教わったんだって、ほら来いよ マジで死ぬ」
私の手を掴んで海から引きずり出した帝統は木の枝を拾いだした、海水を吸ったせいで重くなった上着を脱いで私は彼の後ろを着いていく。
「この木の枝まとめて置いといてくれ、俺石探してくるから」
「・・・うん」
「なんだよその目、教えて貰ったって言ってんだろ」
「本当に火つくの・・・?」
「無理だったらこっからちょっとってかだいぶ歩くけど知り合いんとこ行くしかねえ」
「知り合い?」
「おう!」
帝統はにこにこ笑って石を拾いに行った、私は海から離れた場所に木の枝をバラバラと無造作に落として彼を待った。
▽
「何かあったら言えよ」
帝統は少し照れくさそうに囁いた、ぱちぱちと弾ける火花がグリッターのように秘密の呪いを美しく光らせる。彼氏でもないくせに彼女でもないくせに、そんな言葉を言って言わせているのは何だかむず痒い。帝統が必死につけてくれた火を見ながら私は口を開いた。
「帝統のくせにムカつくなぁ」
「なんだよ!心配してやってんのに」
「私の事が好きだから?」
「・・・ハァ???」
「冗談に決まってるじゃん」
「お前マジでブキミ」
死にたくなるような夜に帝統のケモノみたいなギラついてる目を見ると生きる気力が湧くなんて言ったら益々気味悪がられるだろうか。
「お前さ横来いよ、さみーからくっ付いてた方がいいだろ」
「仕方ないな」
渋々って顔して横に座れば帝統はグイッと私の肩を抱いてふぁあっと猫みたいな欠伸をかます、つられて欠伸すればケラケラ楽しそうな帝統の笑い声が耳の奥にじんわりと響いた。
「女の体ってやっぱあったけえ」
「帝統もあったかいよ、子供体温じゃん ねむたい?」
「ガキ扱いすんなよ」
「・・・どこ触ってんの」
海水のせいでぐっしょりと濡れた服は火に当たっていたおかげで少し乾いてきたもののまだ肌に張り付いている、その布越しに私の胸に触れる帝統を見ればニカッと口を開けて笑っていた。
「ムラムラしてきた!」
「こんな寒いのに?」
「さみぃからじゃね?」
「あ〜」
何に納得してるんだろう私は、ただ私の胸を揉んでただけの手つきは段々とやらしい触り方になっていく、私は彼のあったかい手に凍えそうな風の存在を忘れてしまいそうになった。
「帝統、好きになるからやめて」
「なれよ◎」
急に男くさい顔して私の唇を奪った彼はギャンブルしてる時とは少し違うけれどギラギラ目の奥を光らせ、私の呪いを殺す為に舌をねじ込んだ。