ソルジャー君との再会2



少しだけの寄り道の、はずだった。


「――お前っ…!?」


シノブに頼まれ御遣いに出、良い天気だから散歩がてらフラフラと彷徨っていつの間にか辿り着いてしまった場所―廃れた神羅ビル。人通りも疎らで自分の存在など気にも留めないそれらに安堵していた為か、突然かかった声に勢いよく振り返れば、そこには体格のいい男性が一人。誰かはすぐにはわからなかったが、かかった声にはどこか聞き覚えがあった。
しかし、その顔を眺めても誰なのかという答えがすぐ出てこなくてキョトン顔を向けていると、その男性は一歩、一歩と近づいてきて。


「…あ、」


ようやくその風貌に誰かと気づき、そういやこの感じ前にもあったなと思い出しては少し高鳴る鼓動。鮮明に思い出されるそれは、自分にとってはつい最近の出来事。


「…生きて、たんだな」

「…そっちこそ」


以前とは違い、感動の無い再会になった。
タークス時代に友達になった、ソルジャー2ndの爽やかボーイ君。久しぶりと言うには程遠い時間の差、歳は確か一つ二つ上だったか、たった二年なのにすごく大人びているように見えた。


「…お前、まだタークスにいたんだな」

「…あ、うん…まぁ、」

「"リバイバル"活動にいっつも姿が無かったからよ…俺てっきり死んだのかと、」


勝手に殺さないでくれと言いたいところではあるが、どの口がそんなこと言えたものかと自分で思うので口を閉じておく。
彼はソルジャーという身分は捨てたものの、神羅社員としてエッジ再建・復興の為の仕事―通称リバイバル活動をしているらしい。エッジ再建にはタークスが主となって動いているとルーファウスが言っていたから、そこにこの服を身に纏っている自分の姿が無ければそりゃ死んだと思われていてもおかしくはないが、何だか気分は複雑である。


「元気にしてたか?」

「うん、まぁ、ぼちぼち」

「…あれから、二年たっちまったな」

「……、そうやな」


少し会話にぎこちなさがあるのは、己がその二年という月日を過ごしてないことにあるからだろうと。何をしていたのか、とか、エッジの事や神羅について聞かれるのが怖くて会話が弾まないだけだと思っていた。


「お前、雰囲気変わったよな」

「そう?」

「なんつーか、落ち着いたってか」


もっと元気はつらつとしていたと、二年という月日でお前も大人になったんだな、なんて。
落ち着いて見えるのはきっと、今の現況のせいだ。償うべき己の過ちを、これから果たすべき責務を思えば、昔のようにはしゃいでなどいられないから自然とテンションが下がっているのは自分でも分かる。…それを思えば、あの頃の自分は能天気、えらくテンションHighだった。彼とエレベーターの中でのたわいもない会話が、懐かしさが込み上げては遠い過去へと瞬時に消えていく。


「そういう自分こそ、大分大人びたんと違う?」

「……俺、結婚したんだ」

「っえ!そうなん!おめでとう!」


しかし、突然のハッピーな告白に、抑えていたテンションが上がる。お祝いの言葉は素直に口から出ていた。
メテオやライフストリームの影響で大変な目に遭いながら、彼にも守るべき人が出来たんだと、着実に良い人生を送っているんだと、この世界にもちゃんとそういった"儀式"がしっかりあったんだなって、しみじみと思わされ、緊張気味だった己の顔も自然と綻んでいく。
…なのに、彼の顔は浮かばない。


「…神様は意地悪だよな。…いや、こういう運命だったのかもな」

「?」


さっきから、ずっと。いや、再会してその目があった瞬間から、彼の顔にずっとあった複雑な"何か"。自分が感動の再会に出来なかったのは二年というブランクを悟られたくないという理由で、けれど、彼が感動の再会に出来なかったのは、その複雑な何かのせいだと自分が気付ける筈もなくて。


「俺、ずっとお前に気があったんだ」

「え?」


サァ、と風が一つ通り抜ける。


「はは、今更だよな。…けど、今だからこうして堂々と言える」


もしも、お前が昔のように俺の隣にいたら。
もしも、その時にこの気持ちを伝えていたら。


「じゃあな」


その先を考えるのは愚問だと言うように。右手を上げて去る彼の背に、また明日とはもう二度と言えない、変わってしまった一つの未来を感じながら。
ただ、その背を見送ることしか出来なかった。



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