a tale 1



「――キャプテン!どこ行くの!」


船を下り陸地に足をつけたと同時、その声は上から降ってきた。振り返ればシロクマが自分を見下ろしている。その顔色からして心配して声をかけたというよりは、興味心でかけてきたと言った方がよさそうだ。なんなら自分も付いてくると言いたげだった。


「…散歩だ」


ただの暇つぶしのつもりだった。少し気分転換のつもりで、軽い気持ちで船を降りようと思った…ただ、それだけ。お供が必要かといわれればそうでもなく、寧ろ一人で出歩きたい気分だった為、ローはすぐ帰ってくるとそのシロクマ―ベポに告げた。


「アイアイキャプテン!」


美味しそうな林檎あったら取って来てね。なんてちゃっかり付け加えるベポは最初からそれを言うつもりだったのかもしれない。不謹慎な奴だと思いつつも、ローは軽く返事をしその足を進めた。



――何もない、ただの無人島。大袈裟に地図にも載らない、何の変哲のない島にハートの海賊団―ローの一味は停泊していた。
その理由は、少しの船のメンテナンスの為。ログが指す次の島でやってもよかったのだが、直感的に今すぐやった方がいいと思ったからだった。

それは何の変わりない、いつも通りの日常の一コマ。誰も何も気に留めてはいなかった。


「船長が散歩とか珍しいよな」

「…変な騒動持って帰ってこなきゃいいけどな」


キャスケット帽の男とPENGUINと書かれた帽子を被る男はその後ろ姿にチラリと視線を送りながら、何事もありませんようにと心の中で呟く。普段しない事をすると碌な事がない。ましてや気まぐれな船長の事だから、何があるかわかったもんじゃない。…酷い言われようにも思うが、過去にも似たような例が何度かあったせいである。

そうしてPENGUIN帽の男は、既に姿の消えたその残像を追うかのように森の奥を見つめた。


「…なぁ、シャチ」

「ん?」


シャチと呼ばれたキャスケット帽の男は、隣のPENGUIN帽に目を向けずに船尾をチェックしている。


「…胸騒ぎがするのは俺だけか?」

「あ?」


シャチがPENGUIN帽を振り向けば、彼は今だ船長の消えていった森を見つめていた。シャチも続くようにその森を見やったが、特に何も感じない。
ただの胸焼けだと言ってやれば、PENGUIN帽はその区別くらいつくと呆れたような溜息をついて、自身もメンテナンス作業に取り掛かり始めた。





胸騒ぎは突然に。


「…お前ホント船長好きだよな」

「黙れ」




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