1

 すげー美人だな

 入学式の日、爆豪は柄にもなく女子を見てそんなことを思った。でもそれだけだ。思っただけで何の意味もない。爆豪にとって、異性に興味を持つのは"無駄なこと"の一つだった。



「ミョウジさん、お昼ご一緒しません?」
「するー!」
「ナマエ、ヤオモモ、私もいきたーい!」
「私もー!」

 昼飯食いに行くだけでなにがそんな楽しいんだ。静かにしろ鬱陶しい。キャッキャとはしゃぐ女子の群れを睨みながら、なんとなく近くにいた切島に肩パンした。

「うおっオイ爆豪、急に殴るなよー!」
「いたくねーだろがテメェは」
「そういう問題じゃないだろ」
「チッ」
「おっ激辛麻婆あるってよ! 挑戦してみねー!?」
「うるせえアホ面殺すぞ」
「ひどい」

 上鳴が指差した先には『本日数量限定!激辛麻婆豆腐丼!!』という文字を唐辛子のイラストで囲っているだけの雑なポスターがあった。せめて写真載せろや適当かよ。ポスターのクォリティに悪態を吐きながらも、辛いものが好きな爆豪は少し気分が上がった。

 無事に激辛麻婆豆腐丼を手に入れた爆豪は、上鳴が確保してくれていた席に着いた。

「オラてめぇの分だ」
「さんきゅー爆豪! うわーめっちゃ辛そう」
「余裕だろ」
「お前辛いの好きだもんなー」

 まもなくして切島と瀬呂も席に着いた。二人はカツ丼にしたらしい。食べ盛りの男子4人は、揃うや否や特に喋ることも無く黙々と食べ進めた。

「ぷはー! 辛いけどうまかったー!」
「辛さが足りねぇ」
「まじかよ爆豪! 上鳴涙目になってんぞ」
「クソザコ充電器と一緒にすんな」
「充電器って言うなよ!」
「クソザコはいいんだ」
「よくねー!」

「あっ男子じゃん」

 そろそろ教室に帰ろうとした時、通りすがりの女子たちが話しかけてきた。トレーを返却しに行く最中らしい。

「おー芦戸」
「激辛麻婆食べたの!? どうだった? ちょー辛い?」
「余裕だったぜ!」
「何言ってんだお前涙目になってたろ」
「そういうこと言うんじゃねーよ瀬呂!」
「えー上鳴ダサ」
「爆豪ちゃんは余裕そうね」
「爆豪は辛さ足りねぇってよ」
「すごーい!」
「イメージ通りって感じ」
「爆豪さんは辛いものがお好きなんですね」
「なんかかっこいいねー!」

 口々に適当なことを述べると、女子たちはさっさと返却口に向かった。用が無いなら話しかけんなと爆豪は思った。

「俺たちもいこーぜ」
「激辛麻婆くらいでなんだよ! 俺だって完食したわ!俺もかっこいいって言われたい!」
「うるせえ騒ぐな殺すぞ」
「ええなにそれ」
「爆豪は黙ってたら絶対モテるよなー! 強ぇしかっけーし! 言動がアレだけど」
「言動がアレなのが致命的」
「言動がアレってなんだぶっ殺すぞ!!」
「それそれそういうとこ」
「あア"!?」

 くだらねぇ。爆豪はイライラしながら、先程目があった女子のことを思い浮かべた。
 ミョウジナマエ。特段関わったことがないのに何故か名前を覚えている。特段関わったことがないのに、ふとした時の表情や声や話し方を思い出す。

 ──クソうぜぇ。

 無駄なことを思い出す無駄な時間が、爆豪にとってはとても不可解で、嫌いなことだった。




LIST TOP