8(未)

 林間合宿三日目の夜。個性伸ばし訓練で疲労困憊の中、みんなで協力してカレーを作っていた。

「爆豪くん包丁使うのウマ! 意外やわ……!!」
「意外ってなんだコラ包丁に上手い下手なんざねえだろ!!」
「出た! 久々に才能マン」
「みんな元気すぎ……」

 具材を用意する班の面々は、爆豪の包丁さばきを見て感心していた。
 お茶子が皮を剥いた野菜を爆豪がひたすら切り、切島は肉を切り、上鳴はそれを調理チームへ運んでいた。
 爆豪はさっさと作業を終わらせたくて鬼の形相で野菜を切りまくった。遠くで米を炊く準備をしている班が気になってイライラしているからだ。

 米を炊く準備をしている班は、ミョウジと轟と緑谷。爆豪にとって地雷源といえる二人がミョウジと一緒にいる状況が、爆豪は我慢ならなかった。



 切島は、相澤が班の組み分けを発表した時からこれはまずいと思っていた。

「ミョウジ、俺と緑谷でやるから休んでていいぞ。訓練で怪我してただろ」
「やだ、このくらい平気だよ」
「ミョウジさん、本当に大丈夫?」
「大丈夫!」

 三人の話し声が聞こえたので、切島はなんとなく意識をそっちに向けていた。

「私もみんなと作りたいもん仲間外れにしないで」
「仲間外れにはしねーよ」

 轟がフッと笑ったのを見て、切島はイケメンはずるいなと思った。
 轟は体育祭後から雰囲気が柔らかくなり以前よりとっつきやすくなったが、それでもあんな風に優しい表情をするのはあまり見ない。

「水汲んでくる」
「わかった。緑谷、薪とりにいこ」
「うん」

 そんな会話が聞こえたあと、ミョウジと緑谷が切島達の近くを通り過ぎた。

「どのくらいいるかなー」
「うーん、どうだろう。とりあえず持てるだけ持ってこようか」

 緑谷はいつもそうだが、女子と話している状況に緊張しているのか頬を赤らめていた。

「ヂィッ」

 聞いたことのない鋭い舌打ちが聞こえた。
 切島は反射的に爆豪を見た。爆豪は目尻を90度に吊り上げて人参をダンッダンッと刻んでいた。切島は人参に同情した。

 しばらくして、薪を抱えた二人がやって来るのが見えた。

「ミョウジさん、大丈夫? 重くない?」
「私これでも鍛えてるの、全然へーき」
「でも前見えてないよねそれ? 転ばないようにね」
「もー、緑谷って過保護。ていうか心配性?」
「いや、誰でも気にすると思うよ!」
「あはは、あっ轟」
「お」
「轟くん水ありがとう」
「お前らこそ。薪多いな、少し待つぜ」

 轟はバケツを持っていない方の手でひょいっとミョウジが抱えている薪を数本取った。

「もー、大丈夫なのに」

 ミョウジは唇を少し尖らせて不満をアピールしていたが、そんなミョウジを見て轟も緑谷も笑っていた。

 バゴンッ

 聞きなれない重い音が響いたのでそちらを向くと、爆豪がまな板を包丁で割っていた。

「爆豪くん、切るのは野菜だけでええんよ」
「ッセエわーっとるわ!!」
「わかってるならまな板壊さないでよ」

 麗日と耳郎に小言を言われながら、爆豪はイライラした様子でどこかへ行った。

「どこ行ってたんだ?」
「便所」

 戻ってきた爆豪に話しかけると、幾分か落ち着いたようだった。

 黙々と作業を進め、具材班のやることはあと片付けだけになった。

「腹減ったなー早く食いたいぜ」

 「な!」と切島が爆豪の肩に手を置くと、爆豪は鬱陶しそうに振り払った。
 切島は気づいていた。爆豪がちらちらと米炊き班の方を見ていることを。そして、そろそろ轟と緑谷に喧嘩をふっかけに行こうとしていることを。

「ゴミ捨ててくる」

 爆豪が言った。
 ──おい爆豪、ゴミ捨て場はそっちじゃねえぜ。
 切島はそう思いながら、「おぉ、サンキューな!」とその背中を見守った。



「おいテメェら、米炊けたんか」
「お」
「か、かっちゃん!」
「まだだ。多分あと20分くらいはかかる」
「焦がすんじゃねーぞ」
「かっちゃん、それ言いにきたの?」
「あ? 文句あんのかコラ」
「なっないよ! でもわざわざ話しかけてくるなんて珍しいな〜って……」
「別にクソデクになんざ用ねェわ、お前もな舐めプ野郎」
「ああ、俺も別にお前に用はねえ」
「んだと」
「ちょっ、二人とも!」

「あれー? 爆豪だ。どうしたの?」

「ミョウジさんおかえり」
「ごめんね、ヤオモモ達と喋り込んじゃって」

「もしかしてゴミ捨て場わかんないの? あっちだよ、一緒に行く?」
「……案内しろ」
「ちょっと行ってくるね、二人とも」






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