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爆豪とミョウジが二人で会っていた日、木椰区のショッピングモールでは敵が現れて大変な事態になっていたらしい。
翌日の教室はなんとも微妙な空気に包まれていたので、爆豪はミョウジと話すことができなかった。そしてそのまま夏休みに突入した。
せっかく連絡先を交換したが、爆豪は用もないのにメッセージを送るという概念がないし、ミョウジからもなにも送られてこないので、二人の間でLIMEは全く機能していなかった。
爆豪は林間合宿まで悶々とした日々を過ごした。
*
林間合宿初日、かなりハードでヘビーな洗礼を受け皆疲労困憊だった。夕食を終え、入浴タイムに入るとようやくリラックスすることができた。
「疲れたーーーー!!」
上鳴が夜空に向かって叫んだ。
「だまれアホ面」
「だぁってまじで疲れたし」
「爆豪もさすがに手ぇ痺れてたな」
「うるせえ」
爆豪はイラッとして切島の顔目掛けて思いっきりお湯をバシャアッとぶっかけた。
「うわっぷ! ゲホッゲホッ」
「ざまぁ」
「ギャハハハ!! 切島どんまい!」
上鳴は遠くへ泳いでいった。
「ゲホッ! ちょ、鼻に入った!!」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよキメーな」
「だって、なんかすげー楽しいじゃん!」
「林間合宿!」と言って切島は親指を立てた。
「べつにふつーだろ」
「ふつーじゃねえだろ! 温泉だぞ温泉!!」
「うぜえ」
爆豪はまた切島の顔めがけてお湯をぶっかけたが、今度はかわされた。
「かわしてんじゃねーよクソ髪の分際で」
「濡れてもツンツンしてるお前の髪の方がすげーだろ! どうなってんだそれ」
「あア"?! 喧嘩売ってんのかゴルァ! 死ね!!」
爆笑しながら逃げる切島、キレる爆豪、その二人を見物して野次を飛ばす瀬呂と佐藤、尾白の尻尾を追いかけて遊ぶ上鳴、注意する飯田、のぼせそうな轟、心配そうに見守る緑谷、全てを無視して静かに温泉に浸かる他の面々。
爆豪は切島の胴体をがっちりホールドし、投げ飛ばした。バッシャアアンと大きな飛沫がとぶ。
「ギャハハハ! 切島やられてやんの!!」
「君達! 静かにしないか!」
「てめーも静かにしろやうっせーんだよ!!」
「たしかに! すまない!」
「飯田ッ面白すぎるだろ!」
男子大浴場はとてもうるさかった。
その中で一人だけ、不穏な動きを見せる人物がいた。
高く聳える壁を前にして、さっきから仁王立ちでブツブツ一人で喋っている峰田だ。
「求められてるのはこの壁の向こうなんスよ……」
爆豪は、なにしてんだアイツ──と峰田の挙動をなんとなく眺めた。どうやら、女湯の方を覗こうとしているらしい。
「くだらねぇ」
「えっいいのか爆豪?」
パチャパチャと切島が泳いで近づいてきた。
「あ?」
「あいつ女子の裸見ようとしてんだぜ? ミョウジの裸も……」
「見られるけどいいのか?」──という続きの言葉を聞くよりも先に、爆豪は勢いよく立ち上がった。峰田はすでに壁を登り始めていて、爆豪は焦って阻止しに行こうとした。が、その必要はなかった。峰田は壁を越えられず、向こう側から洸太に押されて落下した。
ホッとしたのも束の間、女子風呂の方を見た洸太が鼻血を噴出しながら落下した。
「あのクソガキ……ぶっ殺す!!!」
「まてよ爆豪、子供は許してやろうぜ!!」
「許さねー! ぜってぇ許さねー!!」
「ミョウジの裸見たかどうかわかんねーだろ? 落ち着けよ」
「離せぇぇクソ髪ぃぃ」
子供だろうとなんだろうと、ミョウジの裸を見た男は全員死刑だと爆豪はたった今決めた。
「あっなんか気絶したみたいだぜ、大丈夫か?」
「ざまぁみろ」
「お前まじで堅気の顔じゃねーぞ」
爆豪はさすがに気絶した子供をボコボコにする趣味はないので引き下がった。けれども、意識がある時にシメてやろうと物騒なことを考えていた。
一方で峰田は飯田にしつこく説教をされていた。
「恥ずべき行為だ! 反省したまえ!!」
「うるせーんだよ! 健全な男子高校生たるもの、女子の裸を見ることに命かけて何が悪いんだよ! お前らがおかしいだろ!!」
「何を言っているんだ君は! 立派な犯罪行為だぞ!」
しかし峰田はまったく反省する様子が無い。あろうことか、懲りずにもう一度壁をプルスウルトラしようとしていた。しかし爆豪が早かった。
「おいテメェ、なにしてんだコラ! ア"?!」
爆豪は壁に張り付いた峰田の頭を引っ掴んだ。
その場にいた男子全員が、爆豪が峰田のプルスウルトラを阻止したことに驚いていた。爆豪はいつも、峰田のソレ系の言動をくだらねぇと一蹴し相手にしないからだ。
「ひっ! ば、爆豪。なんだよ」
「お前ヒーロー科だろうが。なに犯罪行為に手染めようとしてんだ、ア"?! そんなくだらねぇことしてクラスの足引っ張るってんなら、今すぐ退学しろクソが!!!!」
男子たちは、爆豪が珍しくまともな理由でキレているのを見て感動しているが、切島は知っている。違う、そうじゃない──と。爆豪は峰田がなにしようがどうでもよくて、とにかく何としてでもミョウジの裸を見られたくないだけだ。
「わ、わかったよ……オイラが悪かったよ……」
峰田は壁から離れ、しょぼくれながら温泉にダイブした。爆豪の凶悪な顔とドスの効いた罵倒がかなり響いたようだ。
「でもよ……お前らだって、見たいだろ? 女子の裸。爆豪、お前もそんなこと言って、本当は見たいんだろ!?」
──峰田お前、鋼のメンタルかよ!!
全員が心の中でつっこんだ。
爆豪はそういう話に乗らないし、そもそもたった今絶賛ブチギレ中の爆豪によく話を振れたものだと、呆れを通り越してもはや尊敬の域に入りそうだ。皆、爆豪の怒号にそなえた。
「どうなんだよ爆豪!」
「は? 好きな女の裸にしか興味ねーわ」
かぽーん。鹿威しの音が鳴り響く。
「テメェみてーな低俗なザコと一緒にすんじゃねーよクソが、死ね」
爆豪はもう一度湯の中に入り、なんとなく切島の隣に落ち着いた。
うるさかった男子大浴場は、水を打ったような静けさに包まれた。皆、あまりの意外な展開に驚きを隠せない。峰田にいたっては、何が起きたかわからないという表情で固まっている。
(え、爆豪ってそういう感じなの?)
(意外と硬派なんだな)
(爆豪好きなやついんの?)
(なんかかっこいいこと言ったなアイツ)
(意外な一面が垣間見えた)
各々に思うことはあるが、皆口には出さなかった。爆豪に聞こえたら面倒なことになりそうだから。
「お、男らしいぜ爆豪!」
切島が静寂を破った。
「ふつーだろ。お前、好きでもないやつの裸見て興奮すんのかよ」
「えっ…………するだろ」
「キモ」
「いや俺が多数派でお前が少数派だろ! けどお前が一番かっこいいと思う俺! 悔しい!!」
「意味わかんねーしうぜぇ。とりあえず死ね」
「ひでぇ!」
爆豪はここで風呂を出たが、爆豪が去った後の大浴場ではこの件に関する議論が白熱したらしい。ちなみに圧倒的多数派率で、少数派は轟と飯田だったが、飯田は皆から「お前は絶対多数派だ」と詰めらていた。
*
爆豪は適当に体を拭いてさっさと脱衣場をあとにした。熱い喉を潤すために、自販機へ向かった。
「あ、爆豪」
自販機の前には先客がいて、誰かと思えばミョウジだった。ミョウジは濡れた髪をゆるく一つにまとめていて、なんだかいつもと雰囲気が違った。
前髪から水滴が滴り、火照って朱い頬にツーと流れ、鎖骨にぽたりと落ちた。爆豪はその様子を見てゴクリと喉を鳴らした。
「先いーよ、私何買うか迷ってるの」
「……俺も決まってねぇからいい」
「そう?」
否、爆豪は本当は決まっていた。コーラ一択だ。熱いし喉が渇いているので、一刻も早くコーラが飲みたかった。けれども、時間を稼ぎたいと思った爆豪は嘘をついた。できるだけこの場にいたかった。
シャンプーの匂いなのかなんなのか、強めの甘い匂いがしてくらくらした。ミョウジの良い匂いの正体はこれかもしれないと思った。
「やっぱりお風呂上がりはコーヒー牛乳かなぁ」
ミョウジが自販機に夢中なのをいいことに、爆豪はミョウジを凝視した。
いつも下ろしている髪がまとめられているので、うなじが露わになっていた。爆豪は、見てはいけないものを見てしまっているような気がして恥ずかしくなった。ドッドッドッドッ……心臓がこれでもかというくらいにうるさい。
刹那、爆豪は強い好奇心に駆られた。
そろりと手をのばして、うなじに触れる。そして、ひと思いにガッと掌全体で掴んだ。ミョウジはビクッと肩を震わせたかと思えば、目を見開いて爆豪を見やった。
「なに!?」
「……遅ぇ」
「あっごめん、決まったの?買いなよ」
掴んだ手をパッと離すと、ミョウジはなんだそういうことかと納得したような表情をして横にずれた。爆豪は自分の下心がばれていないことを信じて、自販機に小銭を差し込んだ。
ピッ、ガコン
プシュッ
爆豪はコーラをぐびぐびと喉に流し込んだ。キンキンに冷えたコーラは、爆豪のどうしようもない熱を少し落ち着かせてくれた。
「やっぱ桃の天然水にしよーっと」
ミョウジが小銭を取り出している時、曲がり角の向こうから女子たちの話し声が聞こえた。
「お前」
「ん?」
「さっさと部屋帰って髪乾かして寝ろや」
「ええ、なにそれ。先生みたいなこと言うじゃん、うける」
「うるせえ」
爆豪は、風呂上がりの妙に色っぽいミョウジをほかの男子に見られたくなかった。
「あっナマエいたー!」
わらわらと女子たちが近づいてきたので、爆豪はその場を後にした。
「あれ爆豪じゃん」
「ナマエ、爆豪と一緒にいたの?」
「飲み物買ってただけだよ」
「えーつまんなーい!」
「つまんないってあんたね」
「ねー早く飲み物買って部屋帰ろ!お菓子パーティしよ!」
「いいねー」
「さんせー!
「みんなで恋バナしよっ」
「皆さん、消灯時間には歯磨きして寝ましょうね」
「とかいってヤオモモが一番お菓子持ってきてるよね」
「わ、私は個性に影響するからですわ!」
「はいはい」
遠ざかる女子たちの会話を聞きながら部屋に向かった。爆豪はホッとした。ミョウジが女子に囲まれて部屋に戻るなら、安心だと思った。
爆豪は自分の掌を見つめた。先ほど、好奇心に任せてついミョウジに触ってしまったこの手を。
ミョウジの首はとても細くて、少し力を入れたら折れそうだった。あの瞬間の混ざり合った体温を思い出すと、言いようのない感情にぎゅっと押しつぶされそうになった。
「はァァァァ……」
壁に寄りかかり、ズルズルと床にしゃがみこむ。
爆豪は、一度認めてしまったミョウジへの気持ちがどんどん膨らんでいくのと比例して、欲望も増えていくのを感じていた。
──もっと声を聞きたい、もっと笑顔が見たい、もっと一緒にいたい、もっとあの匂いを嗅ぎたい、もっと、触れたい。
この想いを全部伝えることができたら楽だろうな、と思った。
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