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 その日は珍しく、班を組んでの任務だった。
 鴉に案内されるまま集合場所に着くと、一般隊士の他になんと風柱様がいた。
 俺は初めて柱に会った感動でテンションが上がったが、他の隊士たちは顔面蒼白でガタガタと奥歯を揺らしていた。小便を漏らした奴もいた。
 噂で「風柱は鬼より怖い」とか「目があったら殺される」とか他にも色々、物騒な話を聞いたことがあるのを思い出した。
 初めて生で見た風柱はどこもかしこも傷だらけで瞳孔ガン開きで髪型も派手だし、とても堅気とは思えない風貌でたしかにヤベェ奴だなとは思った。しかも俺らとは違う特注っぽい隊服の着こなしがかなり斬新というか露出狂の域だった。なんか……目のやり場に困る。でも、目が合っても殺されなかったので俺は噂は所詮噂だなと気にしないことにした。
 それよりも俺は気になることがあったので先輩に質問した。

「柱が同行する任務ってもしかしてボーナス出ますか?」
「出ねーよ」

 やる気が削がれた俺はチベスナ顔で隊列の一番後ろを歩いた。

 すっかり夜になり、俺たちはどこまでも終わりがなさそうな竹林の前にいた。

「恐らく十二鬼月がいるから気を引き締めろォ。全方位神経を研ぎ澄ませ、物音を立てるなァ。わかったら俺について来い」

 風柱が言った。
 ずっしりと重たい声音だった。
 柱が同行する時点でなんとなく察していたが、やはり十二鬼月がいるらしい。何人かは死を覚悟したような表情で顔を見合わせていた。
 ちなみに今日いる隊士は俺以外全員、階級が乙か丙だった。
 

 ──対十二鬼月要員として集められた人員の中に丁の俺をいれるって何ソレいじめ? 階級上の方とはいえ甲とか乙に比べたら全然だよ? いじめ? 俺今日死ぬの?

 そう思いながらも俺はポーカーフェイスを装った。かなりピリついた空気だったからだ。俺は死に際でも空気を読める男なんだぜ。
 でも出来れば死にたくない。俺は次のお給金が入ったら腹一杯ビーフコロッケを食べるって決めてるんだ。

 だいぶ歩いたが、まだ鬼は現れなかった。けれども異様な気配は竹林を進むにつれてねっとりと絡みついてきていた。
 三股の分かれ道に差し掛かった時、風柱の指示で班は分かれることとなった。左右に四人ずつ、そして真ん中の道に風柱が一人で進むことになった。
 隊員たちはそれぞれ、反対側にいる隊員に向かって力強い眼差しを向けて頷き合った。誰も言葉は交わさなかった。きっとこれがお互いの顔を見る最後だと悟っている者もいた。俺は何も考えないようにした。

「くれぐれも死ぬんじゃねェぞ」

 風柱が言った。
 皆神妙な面持ちで頷くと、それぞれ歩みはじめた。

 結論、俺は三分の一の当たりくじを引いた。そりゃあもう大当たりの。

「ギャハハハ! 弱いな弱いなァ、どうしてそんなに弱いんだ? 正直この頃合いの男は食べ飽きたんだが、まぁ、俺は優しいから食ってやるよ。ギャハハハ!」

 俺は今、鬼の血鬼術によって謎のベチョベチョした粘液に身体を締め付けられ身動きがとれないでいる。笑い方がきもい鬼は血鬼術まできもい。
 しかしこのきもい鬼の目には「下壱」と刻まれている。俺は初めて出会した十二鬼月を前にして冷や汗が止まらなかった。

 ──こいつ、強すぎる。

 一緒にいた隊員たちはすでにやられた。生きているかもしれないが、確認していないのでわからない。そんな余裕はないのだ。一瞬目を逸らした隙に殺される、そんな状況だった。
 俺はなんとか生きているが、骨が何本か折れたし、最悪なことに刀も折れた。本当に最悪な、大ピンチだ。
 一生懸命呼吸しているが呼吸すらも辛い。きちんと呼吸できればシィィと聞こえる音が、ヒュウヒュウ鳴っている。

「アアアア、鬼狩りが苦しみに歪む顔を見るのはたまらん。三度の飯よりなんとやらだ。だが……食べる方が旨いに決まってるよな? グヒヒヒッ」

 鬼の馬鹿でかい手が俺に伸びてきた。

 ──あ、やばい、死ぬかも。

 そう思った、その時。

「風の呼吸参ノ型──晴嵐風樹」

 突然、ヒュォオオン!と暴風が吹き荒んだ。

 暴風の衝撃でその辺に生えていた竹が何本か薙ぎ倒されたし、俺は吹っ飛ばされ、どさっと鈍い音を立てて地面に着地した。
 吹っ飛ばされている最中にまとわりついていたベチョベチョがとれたので、なんとか受け身を取ることができたが、負傷の痛みと苦しさで起き上がることが出来なかった。
 何が起こっているのかと目を凝らすと、月明かりに照らされ輝く銀髪と、真っ白い羽織に浮かぶ「殺」の字が見えた。

 ──風柱だ。

「漆ノ型──勁風天狗風」

 早すぎて目で追えなかった。風柱は、鬼が驚き戸惑っているうちに素早く次の斬撃をしかけたのだ。一瞬のことだった。
 ごろん、と鬼の頭が転がる。

「なんだ!? 何が起きた!? クソッ貴様、柱か!?」

 鬼が叫ぶ。
 いやお前もう死んでるよ。俺は心の中でツッコミを入れながら、ゴロゴロと揺れる鬼の頭を眺めた。鬼の首から下にあったパーツはばらばらになってそこら中に散らばっていた。
 風柱は鬼の残骸をわざと踏みつけながら鬼の頭に近づいていた。

「グァァアア! 体が再生しない! クソォォォ!!」
「うるせェんだよォ……塵が騒ぐんじゃねェ」
「アギャギャギャギャ」

 風柱が鬼の口目掛けて日輪刀を突き刺すと、鬼は奇声を発してぶるぶると痙攣した。風柱は血走った目で鬼を見下ろしながら、刺した刀を回転させグチュリと鬼の口をえぐった。

「うわぁ……」

 俺は思わず掠れた声で呟いた。鬼に同情なんてしないが、トドメの刺し方えげつねぇ。
 鬼はついに静かになり、だんだん消えていった。
 風柱が刀を鞘に収めると、静かな空間にチンッと微かな金属音が響いた。それが合図だったかのように、どこからともなく隠がわらわらと現れた。
 俺は安心感で満たされ脱力した。
 風柱が隠になんやかんや指示を出しているのが聞こえるが、内容は入ってこない。バサバサと鴉が飛び交っていたり、離れたところで先輩が担架に乗せられていたり、辺りは急に騒がしくなった。

「貴方は意識ありますね。具合はどうですか?」

 隠の一人に声をかけられた。

「あー……色んなところが痛いです」
「わかりました。とりあえず水をどうぞ、ゆっくりでいいですよ」

 キュポンと小気味のいい音が聞こえると、口元に瓢箪の吸口をあてられた。言われるままゆっくり水を飲むと、ひんやりとした冷たさが染み入って気持ちよかった。
 それからテキパキと応急処置を受け担架に乗せられ、気付くと俺は眠りについていた。




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