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 あれからひと月が経ち、俺はもうほとんどぴんぴんしていた。
 蝶屋敷で機能回復訓練を受けていると、鴉がやってきて「今スグ読メ!」と俺を突いてきた。
 なんだなんだと渡された手紙を読むと、流暢な文字で長々と難しい言葉が綴られていて、要約すると「鬼殺隊本部に来い」という内容だった。いや最初からそれだけ書けばええやん、と思ったが口に出そうとしたら鴉に突かれたので我慢した。

「鬼殺隊本部ってどこ?」
「ソレハ案内スルカラ追イテコイ!」
「産屋敷耀哉って誰?」
「バカタレ! オ館様ダ! 本来ハ、オ前ミタイナポンコツガ会エル御仁デハナイ! バカタレ! 殺スゾ!」
「待ってお前の言葉が酷すぎて全然わかんない」
「トニカク早ク行クゾ! サッサト隊服ニ着替エロ!」

 口の悪い鴉に急かされるまま、俺は女の子達に断って訓練場を出た。
 着替えている時に、お館様について鴉が説明してくれた。
 千年以上前に鬼殺隊を創立した産屋敷家の九七代目当主で、とにかく凄く偉いお方らしい。体が弱いため滅多に人前に姿を見せず、柱くらいしか会うことができないらしい。

「そんな人がなんで俺に?」
「知ルカ! オ前ナニカシタンジャナイノカ!」
「心当たりがなさすぎてやばい」
「オ前ハ本当ニ緊張感ガナイナ……」

 鴉が呆れたように溜息を吐いた。鴉のくせに。
 蝶屋敷を出ようとすると待機していた隠に「本部は場所が秘匿になっているので」と言われ、素早く目隠しと耳栓をされおぶられた。

「これどんな羞恥プレイ?」

 俺の言葉はシカトされたが、耳栓をしていて返事が聞こえないだけだと思うことにした。

 目隠しと耳栓を取ってもらうと、そこは藤の花が咲き乱れ透き通った綺麗な池がある美しい庭園だった。

「イイカ、クレグレモ粗相ヲスルナヨ」

 鴉はそう言うと、バサバサとどこかへ飛んでいった。

「間も無く風柱様が到着されます。貴方はここで姿勢を正して大人しく待っていてください」
「え」

 なんで風柱? お館様は? と質問したかったが隠の人は逃げるようなフォームで走り去っていった。
 俺は少し心細く感じながらも、言われた通り大人しく待った。
 間もなく、ザッザッと砂利を踏む音が聞こえてきて、本当に風柱が現れた。風柱は相変わらず堅気には見えない風貌でなんだかいかついオーラを放っていた。
 俺は近づいてくる風柱を見ながら、この人も俺と同じようにここまで来たんだろうか? と気になって、風柱が目隠しと耳栓をつけられおぶられそうになるところまで想像して思いっきりベチンッと自分の頬を叩いて想像するのをやめた。笑いすぎて殺される未来が見えたからだ。

「オイ、何してんだァ?」

 風柱は怪訝な顔で話しかけてきた。

「蚊です。蚊」

 俺はパンパンと手を叩いて、潰した蚊を払い落とす仕草をして見せた。
 多分変な奴だと思われているんだろうが、それでもよかった。風柱は「ふーん」と興味無さそうに言った。

「あの、お館様に呼ばれたんですけど、なんで呼ばれたのかわからなくて」

 俺は気になっていたことを聞いた。

「お前が俺の継子になる報告をする為だ」

 風柱が言った。

「は?」

 俺は素っ頓狂な声を出した。

 ──えっ何? ツグコ? 何それ?

 俺は頭の中が疑問符でいっぱいだった。

「お前に拒否権はねェ。逃げたら殺す。わかったら返事ィ」
「はい」

 俺は何を言われているのかさっぱりわからなかったが、従わなければ死ぬことだけは理解したので秒で返事をした。俺は長い物には巻かれるタイプだ。

「聞いてもいいですか?」
「なんだァ」
「ツグコって何ですか」
「……」

 風柱はまじかこいつみたいな顔をした。多分、まじかこいつって思っているんだと思う。

「継なぐ子と書いて継子、まァ要するに……そうだな、弟子だ。俺が直々に稽古をつけてやるし、ついでに衣食住の面倒も見てやる。ありがたく思え」
「まじっすか!」

 柱に稽古つけてもらって強くなれる上に衣食住まで確保されるだと? 継子すげえ! 継子ばんざい!
 俺は素晴らしい気持ちになって、高速で盆踊りを踊れそうなほど気分が高揚した。

「フン」

 風柱はそんな俺を見て微かに笑った。

 その後広いお座敷に案内され、お館様との面会を果たした。
 お館様は本当に病弱そうだったが、凛とした佇まいは美しく、荘厳な雰囲気を醸し出していた。俺は圧倒されて固まっていたが、お館様が話し出すと身体がじんわりと温まるような不思議な感覚に癒された。
 風柱はお館様の前ではとても礼節を弁え、いつもの猛々しい雰囲気は鳴りを潜めていた。お館様がどれほどの存在なのか、どう振る舞うべきなのかを言外に教えられている気がして、俺はなんとなくその風柱の横顔を目に焼きつけた。
 俺が緊張してただ大人しくすることに集中しているうちに、お館様と風柱の間では会話が進んでいた。

「ナマエ、期待しているよ」

 お館様が俺に向けて言った。
 とてもやさしい声だった。

「はっはい! ありがとうございます」

 俺は緊張しながら、ぎこちなく頭を垂れた。
 それからまたお館様と風柱の話が続き、しばらくするとお開きになった。




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