烏丸side/11 箱の中の欠落









おまえら、やることやってんのな。


そう言われたのは、冬休み明けの始業式の日、防衛任務の前のちょっとした空き時間だった。







その日、出水先輩は既に隊室に来ていた。

高校生はまだ冬休み中か と思いながら荷物を下ろす。すると、


「京介ちょっと付き合えよ」


そう誘われて、俺は入ったばかりの隊室を出ることになった。


出水先輩は歩みを緩めず、口を開くこともなく、ずんずんと基地内を進んでいく。

俺も口をつぐんだまま、出水先輩の背中に黙々とついてゆく。なにか問題でも起こしただろうか、と俺自身の落ち度を探りながら。



やがて、本部基地の隅っこ、もう二度と来ないような隅まで来て、出水先輩が振り向く。


そして言ったのだ。


「おまえら、やることやってんのな」、と。



お前らとは一体、俺と誰のことを指しているんだろう。やることをやっているとは、どういう意味だろう。もしかして俺は褒められたのだろうか。いや流石にそれはふざけた。

ああ、どうみたって、どう見積もったって、俺はいま、なじられている。


というところまで思考が巡ったところで、俺は「すみません。もう少しヒント下さい」と言った。


「ああわりいな。えと、だから、つまりさ、」


出水先輩が言葉に詰まっている。言い方に気を回そうと悩んでいるこのひとを見ることができるなんて、今日は槍でも降るに違いない。


「京介と名前って、付き合ってんの」


俺は小首をかしげる。


「付き合ってはいませんけど」


「じゃあやることだけやってるいとこってことかよ?!」


「はい?」


確かにちゃんとやるべきことはやっているつもりだが、どうして先輩はそんなまどろっこしい表現をするんだろう。

やることだけやっている………。


すると出水先輩は、片手で輪っこを作り、もう片方の人差し指をその輪の中にいれる。


ヤることヤッてる、か!


「え、何で」


ぷっと出水先輩が吹き出す。


「お前マジで中学生?ありえねー、鈍感すぎ」

「何で、先輩が知ってるんすか」

「あー………やっぱ。マジなんだ」


いつ、どこで、先輩は知ったんだろう。


「つまりおまえらは、恋人でもなんでもない、ただのいとこだけど仲が良すぎてやることやってるかんじのいとこってこと?」


からっきしそんな感じだ。俺は感心しながら頷いた。


「冷静かよ〜、マジビビるわ。まさかお前らみたいな、性に興味ありませんって感じのやつらがさ……」


人の子なんだなあ、と出水先輩は嬉しそうに何度も頷いていた。なんだと思ってるんだ、俺たちのこと。


「つか、そこまでしといて付き合わないのかよ」

「付き合っても付き合わなくても、多分なんも変わんないんで……?それならいとこでいた方が…、いとこって名乗る方が、いろいろと面倒ごとが少ないんで」

「はー。なるほど。お前ららしーっつーかなんつーか」


その後、先輩がいつどこでそれを知ったのか俺が尋ねると、先輩は急に勢いを失い、

言いづらそうに目をそらしながら答えた。


それは、完全に俺の落ち度だった。


「コタツの中にさ。落ちてたんだよな。コンドームの袋が……」出水先輩はそう答えた。

そうか、初詣の誘いに名前の家にきたあの日か。しかし、そんな素振りは見受けられなかった。先輩は、渦巻いたであろう思いを口に出さないばかりか、態度にも表さず我慢していたんだ。

それを見つけたとき先輩はどんな気持ちだったろう。というか、ただただ気分が悪いよな。誰だって普通、人の家に上げられて そんなものを見つけてしまったら、腹を立てて帰ってしまうだろうに。

聞いた瞬間俺は頭を下げたが、いいっつーの と出水先輩は俺の頭をはたいた。


「俺しか知らねーよ。米屋には言ってねーからな」



ああ。
貸しだな、俺は頭を抱えた。








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