知られざる禁断魔法 1
♡ C l a p ♡
「守りたい……か……」
正悟は昼休みに言われた言葉を思い返していた。
千草は守りたいと言っていたが、正悟としては具体的に何かして欲しいとは思っておらず、力まず自然体で隣りに居てくれればそれでいいと思っている。
そう思っていないと、甘え過ぎて千草の重荷になってしまうような感覚に溺れ、自我を保てなくなりそうだ。
昼休みの別れ際に、それとなくいつも通りに居てくれればそれでいいと言ったのだが、張り切っている千草を見ていたら無下にすることも出来ずに、その言葉を受け止めることしか出来なくなっていた。
千草が負担を感じて重責に押し潰されないか心配にもなったが、今は千草自身を信じるしかないので正悟としても自然体で接していけたらと思っている。
授業の切れ間にそのようなことを考えていると、次の授業の担当教師が教室に入ってくるので、正悟も気持ちを切り替えて授業を受けていく。
そうして授業が終わりホームルームも終わると、正悟は一日が無事に終わったのだと安堵の溜め息を漏らして帰り支度を整える。
しかし、妙だ──郁磨が教室から出て行きしばらく経ったというのに、生徒の数があまり減っていないように感じてしまう。
通常であれば生徒は帰宅、部活、委員会などで、どんどん人が少なくなっていくところだろうに、出入口の辺りの人だかりは減ることがなく、逆に増えているのではないかと思うほどに人集りが出来始めている。
どうやら正悟の容姿があまりにも端麗だったため同級生の中で噂となり、それは一日で瞬く間に広がり一目見てみたいと思う生徒が続出したらしい。
そういったことから、生徒たちが正悟のクラスへと押しかけ今に至っているようだ。
それにしても少しばかり多すぎやしないだろうか──正悟はそんな風にも思ったのだが、チラリと出入口の方を見ると明らかに自身の方へ視線が向けられているのが分かる。
それが例え好意的なものであったとしても、視線そのものが痛い。
正悟はそう思いながら、どうやって教室から出ればいいのかと椅子に座ったまま考えていると、前方から声をかけられ見上げる形で相手を見る。
「凄いな、あれ。瀬奈……大丈夫そう?」
「アキラ……うん、大丈夫。多分」
「下まで一緒に行こうか?」
「でも……アキラにも迷惑かけちゃう」
「俺も帰るところだから大丈夫」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って二人揃って教室から出ようとした時に出入口の方で声がして、しばらくすると生徒たちが散り散りに解散していくのが伺えた。
初めは何かあったのかと思ったがよく見てみたら騒ぎを聞きつけた郁磨が戻ってきて、生徒たちを散開させる為に話をしているようであった。
何を言っているのか詳しくは聞こえて来なかったが、どうやら上手く生徒達を律してくれたようで正直な話、正悟達にとっては好機と言えた。
今出なくしていつ出るんだ──その思考に至るには数秒とかからなかった。
正悟とアキラは荷物を持って教室を出ると、昇降口から敢えて遠い階段を目指して下りることにした。
素早く移動してしまうと、今散っていった生徒達と結局は最後に昇降口で鉢合わせしてしまうと思い、ゆっくりと移動してそれまではのんびり喋りながら帰れば良いとそういうことになったのだが、それら全てはアキラの計らいで、正悟はそういう気遣いがありがたかったのと同時にアキラは本当に人をよく見ているなと感心してしまう。
「アキラって気が利くよね」
「そうか?」
「だって俺、凄く助かってるし……」
「俺も混雑してるところがそんなに好きじゃないだけだから、気にするなよ」
「うん、ありがとう」
二人がそんな何気ない会話をして階段を下りきったところであった。
普段こちらの階段は放課後に使われることはあまりない──何故ならば目の前に居るような通称“不良”と呼ばれる生徒がたむろしていると噂が立っていたからだ。
噂は所詮噂だ──普段からそんな風に考えていたので不良が居るとは思わず下りてきたら、今日に限って何故か人が居る。
それも集会でもやっているのではないかと言わんばかりの人数がそこに居るではないか。
ここはまだ校舎の一角で、いくら人気が無いからと言っても学内で、正悟が取り繕わなければならない敷地内である。
何か騒ぎを起こして教員達に見つかる訳にはいかない──そう考えて、正悟はアキラに小さな声で帰ろうと口にすると、そこに居た不良グループのメンバーである一人に声を大にして指まで刺されて呼び止められてしまった。
「アァーー!アイツ!アイツですよ、ボス!」
無視して帰ろうと試みたが相手が多く前方を塞がれてしまい、アキラだけでも逃がそうとも思ったのだがそれすらも叶いそうにない。
正悟はそんな状態に嫌気が差しつつも、指を刺してきた学生の方に身体を向き直すと改めて顔を再確認する。
すると案の定思った通り、春の一件で千草を騙していたグループのリーダー的存在の奴であった。
正直忘れかけていたが、ここまで派手に騒がれては思い出さざるを得ない状況だ。
正悟は深い溜め息を吐いてどうしようか悩んでいると、ボスと呼ばれた人間が床に座っていた状態から立ち上がり正悟の方まで近付いてくる。
「あぁん?お前がコイツらに手を出したって言う愚か者か?」
目の前に立つ体躯のいい男に睨まれながら、正悟は思う──愚か者はどっちだよ、と。
群れていないと強気に出れないのか、とも思ったのだが、しかしそれを口にすれば一食触発だと思い喉まで出かかった言葉を一旦飲み込み相手の言葉を待つことにした。
「勿論覚えてるんだろうなぁ?ァア!?」
いかにも“不良”といった文句の付け方に、正悟はうんざりしながら“忘れた”──そう言おうとした時だ。
隣でアキラが声をかけてきて、言葉を再度飲み込むことになった。
それが良かったのかどうかは分からないが、結果としては変わらなかったのかもしれない。
しかし少しだけ、正悟の正体がバレるのを伸ばすことが出来た。
数秒だけだが──。
「瀬奈……知ってる人?」
「えぇと……その……」
「早く行こう、先生が来ても面倒だろ」
「あ、うん……」
そう言って二人が強引にその場から去ろうとした時、そのボスと呼ばれた男が近付いてきて力を込めて正悟の肩をいきなり掴んだ。
それが引き金となり正悟の身体が反応してしまう。
掴んできた手を思い切り払い除けてしまい、その男が少しだけ後ろに仰け反り目を丸くして驚いている。
その場に居た全員が同じ事を思ったのだろう──この小さい身体の何処にその力があるのだ、とそう考え正悟を見ていた。
正悟も条件反射で能力を使い危険を免れようとしたに過ぎないが、そのせいで相手を逆撫でる原因ともなってしまう。
ボスと呼ばれた男は、正悟を完全に敵だと認識してこのまま無事に帰そうなどと言う気はないようだ。
正悟は気がかりがあるとすれば、自分のことではない──アキラのことだ。
こんな私怨絡みの喧嘩に巻き込む訳にはいかないと思ったのだが相手からしたら関係のないことだ。
正悟の仲間であれば同じくアキラも攻撃対象に入るだけだと、その場に居る全員がそう考えたのか、正悟の周り以外にもアキラを囲うように人員が配置された。
それが決まった陣形なのか、たまたま周囲を囲っただけなのか、それは分からないがアキラと正悟は完全に分断されてしまう。
「アキラ!」
「おっと……行かせる訳ねぇだろ。お前の相手はオレだからな」
階段を下りたこの場所は少しだけ広い廊下になっており、校内で喧嘩をするなら適していると言っても過言ではないところで、正悟は完全にやらかしたと少しだけ焦ってもいた。
だが、このまま優等生を装いサンドバッグにされるのも気に食わないし、何よりアキラの身が一番大事であった。
巻き込んだ上に怪我などさせたくない。
その一心で正悟は決めた──能力など使わなくてもこの程度ならすぐに終わる。
「てめぇら、やっちまえ──」
そう言い終わらないうちに正悟は勝負に出ることにした。
ボスと呼ばれた男に手刀でもって一撃を入れるとその男は一瞬で無力化され、その場に居た全員が沈黙するほど状況を作り出し、その状況を理解した頃には正悟の周りには数人が倒れていた。
「な、何が──」
不良グループの一人がそう呟き、何か言葉を発する前に正悟が距離を詰め無力化しようとするが、ただ気絶させるだけでは意味がない。
この場を切り抜けるためには一人くらい恐怖を味わってもらうしかないと思い、軽く脅すことにして正悟が口を開いた瞬間だ。
相手が勝手に恐怖で身を竦めることになり正悟は落胆してしまう。
よくよく見てみると、その男というのが千草を騙し甚振っていた主犯の者だった。
「ひ、ひぃ……やめ、やめろ……!」
「まだ何もしてないけど……」
「ま、まだってことは何かする気だろ!」
「何もしない。お前等がこのまま大人しく俺たちを見送ってくれれば、な──」
「っ!わ、分かった!分かったから!お、おい!お前らそそ、そこ開けろ!」
二人を囲っていた不良学生が一斉に道を開ける──否、開けざるを得ない状況だったからだ。
ボスである人間は一蹴され、その右腕とも言える男が脅されその男が道を開けろという命令を出した。
そんな相手に格下の人間が、正悟を相手にして敵う訳もないだろう。
正悟が歩き出すと同時にその場に居た不良達はへたり込んで口々に負けを認めていた。
そんな様子を伺いながらアキラは正悟の後ろを歩いて付いて行くと、しばらく歩き先程の余韻も残らない場所まで来たところで、正悟が振り返り両手を合わせて謝罪をし始める。
「危ない目に遭わせて、本当にごめん!」
「瀬奈?」
「俺のせいでアキラに迷惑かけちゃった」
「大丈夫。いいから気にするなよ」
「でも……」
「それにしても、瀬奈って強かったんだな」
「えっと……そう、かな」
アキラはいつもと態度を変えることなく正悟と会話していく。
あの惨状を見てこんな風に冷静な対応をしてもらったことがなかったので、正悟にしてみればそのことの方が余程驚いていた。
吃驚しているという訳でもなく怯えている訳でもなく、冷静に思考し淡々としているアキラを見て正悟は思う。
「アキラ、落ち着いてるね」
「まぁ、慣れてるから……」
「……え?」
「それより、早く行こう。アイツら追ってこないとも限らないし」
「う、うん──」
正悟の問い掛けにアキラはボソッと小声で呟くと、一瞬で声のトーンを変えて話しかけてくる。
アキラの言う通り、先程の残敵が追いかけて来ないとも言えない状況でこれ以上この場に留まる理由はない。
正悟もその意見には賛成だったので二人揃って昇降口の方まで歩いていくと、先程まで沢山の人が居たであろうその場所に生徒は一人も居らず、足早に校内から立ち去ることが出来て校門まで来るのも案外時間はかからなかった。
そのまましばらく歩いて別れ道が近付いてくると、自然と会話内容もそういったものになってくる。
「じゃあ、俺こっちだから」
「今日は色々とありがとう。あと、ごめん」
「気にするなって、じゃあまた明日」
「うん、またね」
そうして別れるとアキラは自宅へ向かい、正悟はバイト先である禅の店まで歩いて向かうことにした。
正悟は道中考え事をしながら歩いていたので、朝の頃に比べたら人の視線は気にもならなくなり苦にもならずに済んでいる。
ただ、先程の乱闘が後々に悪影響を及ぼさないかどうかが心配になっているが、考えても仕方のないことをいつまでも引きずる訳にもいかないので、気持ちを切り替え店まで進むことにした。
もう振り返らないと決めた以上、正悟は前を向いて歩くしかない。
それが例え苦難の道であっても、だ。
きっと大丈夫。
そう信じて正悟はまた一歩先へと足を動かし進んでいく──。
←BACK | index | top | NEXT→