知られざる禁断魔法 2


♡ C l a p ♡


「追試?」
「うん、追試」

昨日の喧嘩騒ぎも関係なく時間というものは無情にも過ぎていき、今日もまた千草と屋上で昼食を済ませ他愛もない会話をしていた時のことだった。
千草の口から告げられた言葉の意味が一瞬理解出来ずに正悟が復唱すると、その復唱を決定づけるかのように千草もまた同じ言葉を呟き返す。
それを聞いた正悟は怪訝そうな顔をして千草を見るが、千草としては苦笑いをしながら誤魔化す術しか持ち合わせていないため、正悟の方から事情を聞くために問い詰めていく。

「この間の中間考査そんなに悪かった?」
「良くはない……かな」
「だからって追試に呼ばれるの早くない?」
「面倒だよな〜」

追試の話題が出ているというのに、千草は面倒だと考えているだけであまり焦りはないようであった。
しかし一学年のこの時期に追試の宣言をされるようではこの先が心配でならない。
そして今の千草の反応を見ていると、どうも試験の結果だけで追試に呼ばれた訳ではなさそうだと思い、正悟は思い当たることを聞いてみることにした。

「……千草、ちゃんと授業出てる?」
「出てるよって言いたいけど出てない」

ここで正悟は大きな溜め息を吐くことになるのだが、それでも会話は続けていかなければならないので、正悟は呆れながらも次の質問をしていくことにする。
本来であれば昼休憩の大事な時間をこのような会話で終わらせたい訳ではなかったのだが正悟の性格上、知ってしまった以上放っておくわけにもいかず、深追いをする羽目になってしまう。

「追試の教科は?」
「数学と化学と日本史と古典と地理」
「つまりそれだけの教科の授業を真面目に受けてないと?」
「他にも出てない授業はあるけど……」

正悟は思う──これほどまでに大きな溜め息を何度も吐く日はあっただろうか、と。
どうやら今回追試を言い渡された教科は日頃の授業態度も含めてのことなのだろうが、このまま続くのでは留年だってあり得るだろう。
千草にはそうなってほしくないと、その思いだけで正悟は先ほどの溜め息で零れた分の空気を軽く吸ってから、千草の方へと身体を向き直して真剣な表情で声をかけていく。

「勉強しよう?」
「えぇー」
「今は良くても後に差し支える」
「それはそうだけど、一人で勉強しててもつまんないし」
「一人じゃなければいい?」
「そりゃあ、一人よりはいいけど……」

一人でなければ勉強をすると言うのならば自分が付き合えばいい──そう考えて正悟は問いかけると、千草の返答も概ね期待通りのものではあったため、正悟は更に追い討ちをかけるように話を始める。

「追試っていつ?」
「来週の土日」
「委員会の日は無理だけど、それ以外は勉強付き合うから」
「いや、先輩に迷惑かける訳には──」
「それだけの量、一人で乗り切れる自信ある?」
「無いです」
「なら決まり。禅さんに聞いてみるから勉強はそこで」
「オレ、罪悪感でヤバいんだけど」
「そう思うなら今日から真面目に授業に出て、次回からは自力で乗り越えること!いい?」
「頑張ります」
「よし!」

正悟はそういうと立ち上がり、少し早めではあるが次の授業に行くために話を切り上げる。
千草を置いて行こうとも思ったのだが、それはそれでまた授業をサボる要因にもなりかねないので、正悟は一緒に屋上から戻ることにして千草を立ち上がらせると自然と次の授業の話になり、軽くその話をしながら戻ることにした。

「あれ?今日、戻るの早くない?」
「次の授業、体育だから早めに戻らないと」
「そっか……オレも真面目に出ないとな」
「そうだ、千草。追試が終わったら、何かやりたいこと考えておいて」
「やりたいこと?」
「そ、ご褒美。その方がやる気、出るだろ?」

そういうと正悟は軽快な足取りで屋上の出入口から出ると階段を下りて教室へと向かう。
それに遅れないように付いていくと、分かれ道で再度正悟が話しかけてきたので、千草も返答をして教室へと戻ることにした。

「じゃあ千草、放課後に校門で待ってて」
「うん、分かった」

そう言って別れた二人は教室へと向かうと、千草は自分の机に珍しく教科書を出して教師が来るのを待機して、正悟は荷物を置いてから着替えを持って体育館の近くにある更衣室まで行くことになる。
教室を出ようとしたところ、どこかに行っていたであろうアキラが戻ってくるのが見えたので、正悟は率先して声をかけることにした。
昔の自分では有り得ないことだが、こうして自然とクラスメイトに話しかけることが出来るというのは一重に千草のお陰な気がして正悟は心底感謝している。

「アキラ!」
「瀬奈、まだ教室に居たんだ」
「今、戻ってきた」
「これから移動だろ?」
「うん」

目的地までの距離はそれほど無いのだが、それでもゆっくり歩いていると授業に遅れてしまうと思い、少しだけ急ぎ足で歩くことにした。
二人は他愛のない話を続けながら一緒に更衣室まで向かい、着くと早々に着替えを終え体育館に行き教師が来るまで会話をしていると、程なくして本鈴が鳴ったので正悟たちは教師の指示に従い授業を受けていくことになる。

「今日はバスケか……」
「瀬奈って球技が苦手なのか?」
「そういう訳じゃない、けど……」

アキラは正悟の表情を見てすぐに察した──競技よりもグループの輪に入る方法を知らないのだと。
昨日の正悟が喧嘩に勝つ姿を見ていれば自ずと導き出される答えでもある。
あれほどの身体能力があるのならば体育の授業が苦手ということはまずないだろう。
それでも授業の内容を聞いて憂鬱になるというのであれば、原因はそれしかないだろうというアキラの推測であった。

「無理しない程度に頑張ればいい」
「……うん」

正悟もそれは分かってはいるのだが、どうしてもチームプレーというものに憧れつつも恐怖心を抱いてしまうのは仕方のないことではあるだろう。
今まではチームで動くべき体育の授業は避けて通れるものは避けてきた。
だがそれもそろそろ限界だろう、なるべく目立たないようにしていても髪を切り、眼鏡も外して変わると決めたのだから、体育の授業だけ昔のままというわけにはいかない。
学年が変わりクラスにも馴染み始めた頃合になってきたため、段々と仲間意識が芽生えるようにといった競技が増えてくる。
新学期が始まった頃は身体測定や個人の能力を測るための競技が多かったのだが、いよいよそういう訳にもいかなくなってきた。
正悟は覚悟を決めたつもりでいたが、こういう状況になるとやはり不安は残るもので、どう立ち回るか悩んでいるうちに教師が決めたチーム分けで試合が始まることとなり、仕方なさそうにコート内へと足を踏み入れると試合中、流石に怠けて動かない訳にもいかないためそれとなく動いていたのだが、戦況とは常に動き続けるもので、その瞬間が訪れるのも突発的なものだ。

「瀬奈!」

急に自分の名前を呼ばれた時は驚いたが、それでも時は待ってくれない。
それどころかボールが自分目掛けて飛んで来たため、正悟はそれを反射的に受け止める。
一瞬何が起きたのか、パスを出したアキラ以外理解が出来ないほど正悟はノーマークであった。
そのため相手選手も味方である者達も呆気に取られてしまい、一瞬と言っていいものではあるが動きが止まってしまう。
しかしそれがいつまでも続く訳はなく、ボールが正悟の元にあると分かれば相手は当然それを奪いに来る。
渡してしまえばそれで終わりではあるが考えるより先に身体が動いてしまい、正悟は相手選手の動きを全て避けゴールまで駆け抜けボールを入れた。
今度はその光景を見ていた外野の生徒達も一緒になって呆気に取られていたのだが、ボールがゴールのリングネットを通り地面に着いた瞬間、歓声が沸く。
正悟は無意識に動いた身体が何をしたのか理解が追いつかずにいたが、アキラが声をかけてきたのでそれで現実へと引き戻された。

「やったな、瀬奈」
「アキラ……」
「ほら、次も行くぞ」
「うん……!」

正悟はアキラの後を続くように走り出す。
すると他の生徒もそれに追従するようにして試合を再開させた。
最初、戸惑いはあったもののそれからの正悟は戦力と見なされボールに触れる機会も増え、試合が終わるまで身体を思う存分動かして競技を楽しむと、終わった瞬間からクラスメイトと打ち解け始める。

「瀬奈ってバスケ上手かったんだな!」
「凄かったよな、あのシュート!」
「なんであんなに高く飛べるんだよ!」

クラスメイトは試合直後で興奮しているのか正悟に対して質問攻めに入るが、他のチームの試合もあるのでコート内から出ながら正悟は差し障りのない回答をしていく。
それからは順調に授業が進み、最後に全員で使った物を片付けて終了となる。
正悟もアキラと共に片付けをして、教室へ戻る前に着替えを済ませてから更衣室を出ると、予鈴が鳴ったので急ぎ足で自分達の教室へと戻り次の授業の準備を始めた。
そこから先は何事もなく授業を終えるとその日は用があるというアキラと別れて、正悟は待ち合わせをしている千草と合流するため校門へと向かっていく。

「あ、先輩!」
「お待たせ」
「授業、どうだった?」
「……楽しかった」
「そっか!」

正悟としては体育の授業でクラスメイトと打ち解けられたのが余程嬉しかったようで、表情に出さないようにはしていたのだが千草にはそれとなく伝わり、それを見ていると千草も嬉しくなる。
少しでも正悟には自由な感情を表に出して欲しいと願うのは、今では禅や郁磨だけではない。
千草もまた、正悟の幸せを願っているのだから──。




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