物語の続きは
辻崎シオは、眠るのが好きだ。ふわふわとした感覚に包まれて、夢と現を行き来するあの瞬間が1番幸せだ。
常時感覚を研ぎ澄ませるようなサイドエフェクトを所有しているから、気疲れしてすぐに眠くなるんだろう、と本部のスタッフは言っていたが、シオにとって詳細はどうでも良かった。
眠いから寝る。それだけ。
とはいえ、きちんと人間としての節度は守っているつもりである。突然道端で寝たりはしないし、きちんと「安全だ」と確信できる場所でしかうたた寝をしたりしない。
だから、本部の廊下で爆睡したっていいのだ。ここは街のどこよりも安全なのだから。
「おーい、辻崎」
ぺしぺし、と軽く頭を叩かれ、シオは重いまぶたを上げた。
蛍光灯の明るさに目をしばたかせ、なんとか相手の顔を確認する。
「かんみねさんだ」
「神峰さんだ、じゃない。こんなとこで寝るんじゃ……二度寝するな」
シオは神峰に背を向けようとしたが、神峰に肩を掴まれて阻止される。
目を閉じて顔を思い切り背け、抵抗してみたが、神峰は二度寝させてはくれないようだった。
「寝る場所は選べ」
「選んでる……本部は安全」
「そういうことじゃなくてだな……」
大仰にため息をつかれたが、シオに起きる気はまったくない。明瞭には覚えていないが、なんだかいい夢を見ていた気がしたのだ。
何より、まだ眠い。チャージが足りていない。ここは眠気に素直に寝るべきだ、とシオのサイドエフェクトが言っていた。
「仕方ないな」
シオは浮遊感に身を任せる。神峰に背負われたのが分かったが、このまま眠れそうなので抵抗はしない。
むしろ、あたたかくて居心地がよかった。
「辻崎の保護者はどこに行ったんだ?」
「今日はひとりできた」
「玉狛まではデリバリーしないぞ」
「…………。」
「辻崎、聞こえないふりをするな」
「……なんで、秘密なの?」
神峰が息を継ぐのが、気配で分かった。
シオは緩く目を開けて、神峰からの返答を待つ。
「辻崎はいつも話が飛ぶな」
「いつも、じゃないよ?」
あの時とシチュエーションが似ていたから、思い出しただけだ。
今よりも幼い神峰に背負われて、ゆらゆら揺られながら聞いた短い物語を、シオはきちんと覚えている。
神峰は「あの話に続きはない」と語ったが、シオは続きが聞きたかった。
シオには難しい話は分からない。ただ感覚的に、あれはとてつもなく大切な話だった、ということだけを理解している。
架空の夢物語を、あんなに噛みしめるように語ったりはできないはずだ。
「あの話は秘密だって言っただろう」
「……うん」
「あの話に続きはないんだ。嘘じゃない。今作ってる途中で、話せないんだ」
あの時と同じように、神峰は一語一語に力を込めて、自分へ言い聞かせるように語った。
「そのうち、続きできるの?」
「多分な」
「じゃあ、続きができるの待つ」
「あぁ、そうしてくれ」
神峰がかすかに笑う気配がした。
シオは神峰の答えに満足して、また目を閉じる。安心感に揺られながら、物語の続きに思いを馳せた。
「おはなし、ハッピーエンドになる?」
微睡みの中で、また神峰が笑う気配がした。