太陽が帰る支度をはじめた午後6時。わいわいと賑わう商店街の中、花も帰路についていた。子どもが帰る時間はとっくに過ぎているが、夏はみんなゆっくりだ。じんわりとした暑さにも負けずにはしゃぎ回る声が聞こえてくる。「必殺」だの「覚えてろー!」と言った台詞が耳に入る。ヒーローごっこでもやっているのだろうか。花は微笑ましく思う。私にもそんな時があったなあ、と幼い頃の思い出が蘇る。女の子の自分は専らピンクだ。そして、兄がレッドで弟は――
「姉さん」
ふいに後ろから声をかけられ、反射的に振り返る。
「あ、グリーン」
タイミングよく現れたのは、弟の翠であった。名前のせいか、ヒーローごっこではグリーンが多かった彼。記憶と現実が混ざりあい、思わず呼んでしまう。
「……姉さんまでやめてよ」
「私まで?」
「学校の、その、ユニットの先輩が俺のことグリーンって呼ぶんだよ」
「ああ、流星隊? だっけ?」
「そう。名前のせいで流星グリーンにさせられた……鬱だ……」
肩をめいっぱい下げてどんよりとした空気と共に吐き出された口癖に、思わず苦笑をもらす。身体は大きいのに気が小さい弟は、なにかと卑屈になりやすい。暗くなった彼を宥めるのは、生まれた時から花の仕事だった。
「でもぴったりじゃん」
「……確かに名前はミドリだけどさあ」
「それもあるけど、名前がミドリじゃなくても翠にはグリーンが似合うよ」
「えー……」
褒め言葉だとは受け止めてもらえないらしい。眉を寄せて微妙な反応をする。
「グリーンってなんか自然っぽい色だし、優しそうじゃん」
「うん、まあ」
「だから優しい翠にはぴったりだなあって」
「俺が優しい……?」
「優しいよ」
思ったよりも強い声が出て驚く。しかし、立ち止まって目をぱちくりとさせる弟は花以上に驚いていた。彼が声にならない返事をもらしたので、そのまま話を続ける。
「翠は昔から優しいよ。グリーンが特別好きなわけでもないのに、兄さんがレッドが良いって言えば文句も言わずにその通りにしてあげたじゃない」
「そんなことで……」
「勿論、それだけじゃないよ。部活やユニットの活動で忙しくてもちゃんと家の手伝いしてくれるし、今だって私の歩幅に合わせて歩いてくれてるし」
「そんなの褒められることじゃないよ……」
「一番はそこ」
「そこ……?」
「細かいことかもしれないけど、そういう小さな親切を当たり前のように出来るのは翠の優しいところだよ」
言いたいことを言ってにっこりと微笑みかける。きょとんとしていた弟は、うっすらと赤くなった頬を隠すように顔を背けてまた歩き始める。
「……変なこと言ってないで早く帰ろ」
「ふふ、そうだね、グリーン」
「だから、それやめろってば……」
不貞腐れたような声がかえってくるが、長く伸びた影は2人仲良く並んでいた。
(151120)
高峯兄は捏造。
「姉さん」
ふいに後ろから声をかけられ、反射的に振り返る。
「あ、グリーン」
タイミングよく現れたのは、弟の翠であった。名前のせいか、ヒーローごっこではグリーンが多かった彼。記憶と現実が混ざりあい、思わず呼んでしまう。
「……姉さんまでやめてよ」
「私まで?」
「学校の、その、ユニットの先輩が俺のことグリーンって呼ぶんだよ」
「ああ、流星隊? だっけ?」
「そう。名前のせいで流星グリーンにさせられた……鬱だ……」
肩をめいっぱい下げてどんよりとした空気と共に吐き出された口癖に、思わず苦笑をもらす。身体は大きいのに気が小さい弟は、なにかと卑屈になりやすい。暗くなった彼を宥めるのは、生まれた時から花の仕事だった。
「でもぴったりじゃん」
「……確かに名前はミドリだけどさあ」
「それもあるけど、名前がミドリじゃなくても翠にはグリーンが似合うよ」
「えー……」
褒め言葉だとは受け止めてもらえないらしい。眉を寄せて微妙な反応をする。
「グリーンってなんか自然っぽい色だし、優しそうじゃん」
「うん、まあ」
「だから優しい翠にはぴったりだなあって」
「俺が優しい……?」
「優しいよ」
思ったよりも強い声が出て驚く。しかし、立ち止まって目をぱちくりとさせる弟は花以上に驚いていた。彼が声にならない返事をもらしたので、そのまま話を続ける。
「翠は昔から優しいよ。グリーンが特別好きなわけでもないのに、兄さんがレッドが良いって言えば文句も言わずにその通りにしてあげたじゃない」
「そんなことで……」
「勿論、それだけじゃないよ。部活やユニットの活動で忙しくてもちゃんと家の手伝いしてくれるし、今だって私の歩幅に合わせて歩いてくれてるし」
「そんなの褒められることじゃないよ……」
「一番はそこ」
「そこ……?」
「細かいことかもしれないけど、そういう小さな親切を当たり前のように出来るのは翠の優しいところだよ」
言いたいことを言ってにっこりと微笑みかける。きょとんとしていた弟は、うっすらと赤くなった頬を隠すように顔を背けてまた歩き始める。
「……変なこと言ってないで早く帰ろ」
「ふふ、そうだね、グリーン」
「だから、それやめろってば……」
不貞腐れたような声がかえってくるが、長く伸びた影は2人仲良く並んでいた。
(151120)
高峯兄は捏造。