24 -目障りな女-





予想もしていない事が

どうしてこうも


現実になっていくのだろう――?











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(side:幸村)















彩愛がテニス部から消えた。

まぁ、いつかこんな結末に辿り着くんじゃないかとは思ってたけど。



『幸村くん』



ご機嫌な女王様が、俺の視界に移った。

出来れば今は会いたくなかった。



『ねぇ。“幸村くん”じゃ只のクラスメイトみたいだから、“精市”って呼ぼうかしら』



いつもより1オクターブ声のトーンが高くなるのは、彩愛を追い出す事に成功したからだろう。

俺にとっては耳障りな声だ。



「勝手にすれば良いよ」



俺は素っ気なく返事をする。

クラスメイトみたいって…呼び方変えても結局君は只のクラスメイト以下だけどね。



『何よ、ご機嫌斜め?』



急に声が低くなる牧原。

機嫌が良いわけがないと、少し考えたら分かるだろう。




「部内がゴチャゴチャになって、部長としては最悪の状況だよ」



それもこれも全て君のせい

って付け足してあげたい気分。



『ま、彩愛ちゃんが抜けたから、このままほっとけば回復するんじゃない?』



なんて無責任な発言を、流石に放っておけなかった。



「君はお気楽だな」




呆れたこの女に、笑みを向けた。

本来なら、彩愛は辞めずに済んだのに。

テニス部が掻き乱されて行くのを止められない。

それが俺にとって、今一番の悩みだ。




『そんなに彩愛ちゃんが辞めて悲しいわけ?』




そんな問題じゃない。

この女は、気付かないかな?

俺の笑顔が、段々曇っていく事に。



『私があの子の代わりになってあげようか?』



黙っていれば、こんな事を言い出す始末。

彩愛の代わりなんて居る筈がない。

この女の発言はいつでも軽々しくて、俺の苛立ちを掻き立てる。



「君がどうやって、彩愛の代わりになれるって言うんだい?」



単純な疑問だった。

まぁ、答えはあまり期待していなかったけれど。



『そうね…。“精ちゃん”って呼んであげる』



返ってきた返答は、予想通りの低レベルな答えだった。



断固拒否するよ。

本気中の本気で。

何とでも呼べば良い。

でも…その呼び方だけは絶対にさせない。



『何よ、その顔』



知らない間に牧原を睨んでいたらしい。

本当に無意識だった。

それくらい、この女に拒絶反応を起こしているんだろうな。



「ごめん、次の練習試合のことを考えていたよ」



そう言って、俺は今までのくだらない会話を自分の記憶から抹殺した。

これが多分、適切な処理だろう。



『アンタさ、私に隠し事してない?』



今度はそんな面倒な問いを、俺に投げ掛けてきた。

隠し事の一つや二つ…いや、数え切れないくらいにあるよ。

君限定で。



「そう言えば、朝…手紙を貰ったな。中身は見ていないけど」



貰ったと言うか、正しくは引き出しの中に入っていたんだけど。

不気味だったから、それをジャッカルの机の中に入れといたってことは…秘密だけどね。



『そんなことじゃないわよ』

「じゃあ、何の事かな?」



言っておくけど、君と関わっていること事態が、嘘の俺だから。

彩愛のことがなければ、絶対に関わらない人物であることは間違いない。




『彩愛ちゃんと…』

「彩愛と?」

『キスしてたんでしょ?』




不覚にも、一瞬固まってしまった。

まさか…見られてたのか?



『私の友達が見てたの』

「…見間違いじゃない?」



俺は笑顔でそう言い放った。



『嘘…正直に言って!』

「じゃあ君は、俺とその友達…どっちを信じるの?」




そんな言葉を投げ掛ければ、ホラね。

段々俺の言ってる事が本当に聞こえてくるだろう?





『…なら、私にもキスして』





どうして次から次へとそう厄介な事を思いつくんだ。

俺は腹の奥から溜息を吐いた。




「こんなところで?」

『そうよ!』



部員も見え隠れする部室の前。

俺は正直躊躇った。

彩愛の時は我を忘れられたのに。

この女となるとどうにも戸惑いを隠せない。



『出来ないの!?』



目の前で騒ぎ立てる牧原。

これ程鬱陶しいのも珍しいな。



『なら仕方ないわね。本格的に彩愛ちゃんを――…』




取り敢えず黙らせたかったので仕方なくキスをした。

“不快”の、一言だった。


素早く牧原から離れ、視界を周囲に向けた。

その時、目を疑う光景が…目の前にあった。





『あ…』



彩愛が、居た。

彩愛の顔は、確実に俺と牧原のキスを目撃してしまった表情だった。



「彩愛…」

『あら、彩愛ちゃんじゃない』




最悪なところを見られてしまった。

頭の中に、後悔という念が回った。



『あ、あの…せい…じゃない…。ゆ、幸村部長に…話が、あったんですけど…また後にします!!




彩愛は必死にそう伝えると、走ってその場を去っていってしまった。




『フフフ、見られちゃったわね』




牧原のそんな言葉も俺の耳には入らず、俺はただただ疲れ切っていた。

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