25 -目撃した事実-
私は運が悪い。
タイミングも悪い。
あんなもの、見たくなかった――
Link.25 -目撃した事実-
(side:彩愛)
赤也と白井さんの必死の訴えに、私はテニス部に復帰を考えた。
その矢先に見てしまった…精ちゃんと牧原先輩の…キス。
キスだよね、あれは。
どう考えても…キスだ。
「…タイミング、悪…」
一人でそう呟きながら、ボロボロとこぼれ落ちてくる涙を止めることが出来なかった。
二人が付き合ってるのも知ってるし、付き合ってるんだからキスくらいするってことも分かってる。
ただ、それを目の当たりにするとは思っても無かった。
頭の中では二人の関係を認めてる筈なのに、どうして動揺なんてしてるの?
恋人同士なんだから…当たり前でしょ…。
当たり前なんだから…
止まってよ、涙…
『彩愛…!』
『大海さん!』
前方から私の元へ駆け寄ってくる二人。
何だか二人の顔を見ると、安心したような感覚になって。
涙は余計に溢れた。
「赤也…白井さん…。私…」
嫉妬でどうにかなってしまいそうだよ…――。
『大丈夫?大海さん…』
優しく私の背中をさすってくれる白井さん。
テニス部に戻るって決心した矢先に…どうしてこんなことに。
「うん…平気。ありがとう…」
今まで彼女に嫌悪感を持っていた事が不思議なくらい、彼女の隣は心地良かった。
『牧原先輩ねぇ…。お前が居るって知っててわざとしたんじゃねーの?』
赤也は私の隣で頬杖をつきながら言った。
牧原先輩がわざとした…?
ううん、違う。
あれは…精ちゃんからに見えた。
『亮子先輩が…?』
『あのな、白井。お前が思ってる以上に恐ろしい人なんだからな、あの人は』
赤也がビシッと白井さんに人差し指を向けて指摘する。
白井さんはと言うと、半信半疑な顔をしていたが、あることを思いだしたようで口を開く。
『ずっと…気になってたんだけど』
「…?うん」
『大海さんが亮子先輩の腕をラケットで殴ったってゆうの…本当?』
私の脳は一瞬、思考が停止した。
…なんだって?
今、なんて言った…?
「私が…なんだって?」
『だから、亮子先輩をラケットで殴ったって…』
「そっ…
そんな事するわけないじゃん…!!」
私は叫んだ拍子に立ち上がった。
どこからそんな発想がやってくるのか。
嘘つきを通り越して、もはや尊敬するよ。
『大海さん…ごめん。私が悪かったから、座って…?』
「あ、あぁ…ごめんなさい」
私は大きく息を吐いてから、もう一度その場に座り込む。
ビックリしすぎて、つい体が反応してしまった。
『じゃ、じゃあ…念の為にもうひとつ質問するけど』
「うん」
『亮子先輩と大海さんって、仲良いの?』
『
ナイナイナイナイ』
私が答える前に、赤也が手を横に振る。
『例え彩愛が仲良くしようとしても、あっちがあんな性格だからな』
「
仲良くしようなんて思わないけどね」
赤也があり得ない例え話をするから、私も思わず本音が出てしまった。
『そう…』
「あ…いやっ、完全に私達の偏見だけどね!」
静かに頷く彼女に、慌てふためく。
変な先入観を与えても仕事やりづらいだろうし。
しかし、彼女の口から出てきた言葉は、
『ううん、それは無いよ』
という言葉だった。
『入部してからずっと、気になることがあったの』
「気になること…?」
『最初は亮子先輩の言葉を全面的に信じてた。けど、みんなが大海さんを疑い始めたあの発言で…私も亮子先輩が信じられなくなったの』
『彩愛が仕事押し付けてるってやつか?』
赤也がそう言うと、白井さんはコクリと頷く。
正確に言うと、仕事押し付けて嫌がらせをしてるってヤツね。
『私が見てる限り、大海さんは仕事をサボってなんてなかったし、嫌がらせなんてしてなかった』
『まぁ嘘だろうな』
『最初はどうしてそんな事を言い出したのか分からなかったけど、部員から酷い虐めを受けている大海さんを見て…確信したの。これがあの人の狙いだったんだって』
私と赤也は無言で白井さんを見つめる。
『誰が本当のことを言ってるか、その時やっと分かったの』
何が正しいかなんて分からない。
この気持ちが何を意味するか、それすら分からない。
でも、ただ嬉しかった。
全てを理解してくれてる彼女の言葉が、
ただ…嬉しかった。
『大海さん。私、アナタの事誤解してた。本当にごめんなさい…』
白井さんは私の方を向いて、深々と頭を下げる。
「
い、いやいやいやっ!そんなっ、謝らないで!」
『でも…私も今まで大海さんのこと、酷い奴だって罵ってた…』
「それは、仕方ないよ!気にしてないから!」
白井さんの頭を上げさせようと必死だった。
そんな謝られる覚えもないよ…。
『ヒヨッ子三人組。こんな所で堂々とサボりとは、随分エラなったのぅ?』
『げっ…仁王先輩…』
雅治先輩が悪戯な笑みを見せて現れた。
ヤバイ…もう部活始まってたっけ。
『なかなか部活に来んから探しとったと言うのに、三人揃って楽しくお喋りか?』
『ご、ごめんなさい!直ぐに行きます!』
『…待ちんしゃい。お前さんにも話があるんじゃ』
雅治先輩は白井さんの手を取って、ニヤリと笑う。
そしてこう言った。
『それじゃあ今から、作戦会議…始めるぜよ?』