26 -共同作業-




少しでもあの時に戻れる

可能性があるのなら

私はその可能性を

信じたいんだ…――











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「作戦会議って…部活はどうするんですか?」

『そッスよ。副部長に怒られるのだけは勘弁ッスから』

『私はマネージャーの仕事が…』

あーうるさい。お前さんらは部活部活部活部活、どんだけ部活が大事なんじゃ』



少なくとも雅治先輩が幹事の作戦会議よりかは…。

って言っても、私はテニス部員じゃないんだっけ。

何だか自分で言ってて悲しくなってきた…。



『全部参謀が何とかしてくれるじゃろ。ヒヨッ子達が、そんな心配するんじゃなか』

『アンタ、本当に人任せッスよね』

なら真田にコッテリ絞られて来たらどうじゃ?

『うっ……口答えしてスンマセンでした…』

『それでヨシ。こんな絶好のチャンス、見逃す訳にはいかんからのぅ』



雅治先輩は私達三人の顔をジッと見る。

な…何なんでしょうか。



『どうやら、仲直りは出来たようじゃの』

「ま…まぁ…」

『それじゃあ、質問じゃ』



雅治先輩の人差し指が私達の方向に向けられた。



『これから、どうする?』



その雅治先輩の問い掛けに、私達は頭の上で"?"を踊らせた。

どうするって、どうゆう意味ですかい。



『まさかお前さんらは、このままで良いなんて思っとるんじゃなかろうな』



雅治先輩の言っている意味がよく理解出来なかったのは、私だけだろうか。

他に何の問題があるって言うの?



『真田、丸井、ジャッカル、柳生…そして二軍の奴らに彩愛の誤解を解くのが先決として』

「あ…」



そっか、忘れてた。

私、みんなに嫌われてたんだっけ。

色んな事がありすぎて記憶から飛んでってたよ…。



『その後…牧原をどうするか、って事じゃ』

「牧原、先輩…?」

『あんな悪魔をテニス部に在住させてたら、後々凄い事になるのは目に見えとぉよ』



確かに…。

今はその前触れにしか過ぎないけど、このままじゃテニス部は分裂してしまう。

それだけは…何としても避けたい。



『私が…何とかします』



白井さんは、足の上に乗せた手をギュッと握り締めながらそう言った。



『大きな原因になったのは私なんです。私が居なかったらこんな事にはなってなかった』

「そっ…そんな事ないよ…!

『いや、確かにそうじゃ。白井がテニス部に入ったが故に、アイツの作戦が順調に進められた』

「雅治先輩…!」



違うよ、みんな間違ってる!

元はと言えば、私が牧原先輩に生意気な態度をとってたから、だからこうなったの。

あの人の怒りの矛先は、最初から私にしか向いて無かったのに…。



「全部、私が原因なんです。みんなを巻き込んじゃったのも、テニス部がこうなったのも…」

『そうじゃの。お前がファンクラブから呼び出し食らっとる事を知っちょったら、事前に防げる対処法はあったかもしれん』

「う…」

『なーに言ってんッスか、仁王先輩!彩愛が呼び出しされてる事なんて、みんな知って…だっ!!

赤也、ちょいと黙っときんしゃい



雅治先輩は赤也の頬をグーで殴った。



「…バレてたんですか」

『気付かんとでも思ったか?』



私は心の中で滝のような冷や汗を流していた。

気付かれてない、なんて思っては無かったけどさ…。

私が隠してた事をみんな知っていたかと思うと、何だか申し訳ない思いでいっぱいだよ。



「ごめんなさい…」

『何で謝るんじゃ?』

「いや、その…呼び出しされてた事、言ってなくて」

『隠し事はナシって、高等部に上がる時にみんなで約束した事…覚えて無かったんかのぅ』

「覚えて、ました…。けど、時期的に大変な時なのに、私の事でみんなに心配掛けたくなくて」

『……はぁ』



雅治先輩は大きな溜息を吐き、呆れ顔で私を見る。



『みんなに心配掛けたくないのなら、みんなに話す事が最善の方法じゃろ』

「…スイマセン」

『お前さん達は"自分が悪い、自分が原因だ"って自分が全て背負う事で相手が救われるとでも思っとるんか?良いか、よく聞きんしゃい』



『相手が自分を思う気持ちが大きければ大きい程、相手が背負う気持ちは大きく膨れ上がる。お前達がしている事は他人に自分以上の不安を投げ付ける、"逃げ"以外の何ものでも無い。と言いたいのであろう』



「蓮二先輩…!」



いつの間にやら、蓮二先輩は雅治先輩の横に腕を組んで立っていた。



『参謀…代弁感謝ナリ』

『仁王。お前がしている事も責任を俺に押し付けて逃げていると思うが…相違ないか?』

『……、そう言われてみればそうかもしれんのぅ』

「雅治先輩…」



折角今雅治先輩の事を見直しかけたけど…検討し直します。



『真田の奴、怒っとったか?』

『否、弦一郎は俺の方で何とか説得しておいた』

『流石、参謀じゃのぅ』

『今回は見逃すが、突然部活を抜け出すのは金輪際やめて貰おう』

『ヘイヘイ、そう怒りなさんな』



そして蓮二先輩も、仁王先輩の隣に座る。

蓮二先輩が体育座りしてるのって…何だか新鮮だ。



『話は変わるが、先程お前達は"自分が原因だ"と言ったな?』

『…ハイ』

「言いました、けど…」



蓮二先輩が醸し出しているオーラが何故か奇妙に感じた。



『原因はお前達二人共にある。ならばそれを片付けるのもお前達の責任だ』



蓮二先輩の言う通りで、それは私達が一番理解していること。

だけど、この状況を収拾する方法が分からない。

私の脳で考えられる限度を過ぎてるんだよ…。



『どうすれば…良いんですか?』

『簡単な事だ。牧原の計画を順調に進めれば良い』

……ハイ?



ちょっとちょっと、そんな事をしたらテニス部破滅ですよ!?

やっぱり蓮二先輩の言い出す事は尋常じゃない…。



『ただ単にあちら側に計画を進められれば良いと言う訳では無い。牧原には順調に物事が進んでいると言うように思わせ、その計画を阻止する。それが策略だ』

「なるほど、そうゆう事ですか」

『でも柳先輩。簡単に言うけど、それって結構難しいんじゃないッスか?』

『確かに、牧原との信頼を築いてなければ無理な話だが』

『でしょ?あんな人が信頼する人なんてそうそう…』

『それが出来るのが白井、恐らくお前しか居ない』

『えっ…わ、私ですか…!?』



白井さんは目を丸くして蓮二先輩を見る。

でも、そうだよね。

白井さんと私が仲良くなった事なんて、牧原先輩はまだ知らない訳だし…。



『白井は出来るだけ牧原と仲良くし、彩愛には近付かない事。出来るか?』

『ハイ、頑張ります』



白井さんは私の手を強く握り、そう答えた。

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