30 -謝罪-
ごめん。
ごめん…。
君を傷付けた分、きっと守るから――。
Link.30 -謝罪-
(side:幸村)
「………ッ…」
彩愛の感触が、まだ背中にハッキリ残っている。
これで…良かったんだ。
自分でも何が正しいのか、分からない。
でも…中途半端な優しさで、また彩愛を傷付けるわけにはいかない。
「相手…間違えた――」
あの時の彩愛の顔は、今でも覚えている。
多分、さっきも同じ顔…してたんだろうな…。
『精ちゃん!大好き!』
『私が好きなのは精ちゃんだけだもんね!』
『頑張って精ちゃんの好みの女性になるよ!!』
『せーいーちゃん!!』
もう、終わった…。
全部…。
悔やんでも仕方がない。
前に進まなければ――
『精ちゃん聞いてるー?』
「
!?」
『精ちゃんったら、今日ずーっと上の空ね』
「あ、あぁ…牧原…」
どうやら相当なところまで来てるみたいだ。
一瞬、牧原の声が…彩愛と重なってしまった…。
「その呼び方やめてくれる?」
俺にとってこれ以上の毒は無い。
何だかここ最近で、どっと疲れた。
二十歳くらい老け込んだ気分だ。
『…彩愛ちゃんと被るから?』
この女は彩愛の事になると本当にうるさい。
喋るだけでうるさいのに、彩愛の事で騒いでいる時は、この上なく癪に障る。
『あの子の事好きなの?』
『私の事を捨てたらどうなるか分かってるんでしょうね』
『今度は彩愛ちゃんに何をしようかしら?』
一つ一つ外す事なく、俺の脳を刺激する言葉。
仮にも何年か前に手術した体なのに、労るという意思は無いのだろうか。
『私と彩愛ちゃん、どっちが好きなの!?』
――ガタンッ。
勢い良く椅子から立ち上がり、俺はこう言った。
「
彩愛だよ」
あまりにも脳を刺激されたからだろうか…。
急に、我慢するのが馬鹿らしく思えてしまったんだ。
『
なっ…そんなこと言って…どうなるか分かってるの!?』
「彩愛に何かしたら、俺が君に仕返しするから」
人間極力まで追い込んだ方が、案外良い考えが浮かんだりするものだな。
最初から、こうすれば良かったんだ…。
『私と…別れるってこと…?』
「………」
喉から手が出るほど、その結果が欲しかった。
でも…
やっぱりまだ野放しにするには早すぎる。
そう思った。
「そう言うことじゃない。ただ、俺を不快にさせる発言をしたりするなら、俺も黙ってないよって事」
牧原は納得のいかないような顔で黙っていたけど、“わかった”と、渋々了承した。
どうやら少しくらい圧力を掛けても平気なようだな。
『精市、ちょっと良いか?』
「蓮二」
…――
『何があったんだ?』
階段の方に呼び出した蓮二は、俺にそう問い掛けた。
情報が早い…流石はうちの参謀だな。
「…何が、って?」
『惚けるな。分かっている筈だろう?』
「…ソースは赤也か…」
『当たりだ』
相変わらずお喋りなヒヨッ子だなぁ、赤也は。
お仕置きが必要だね。
「彩愛を…ズタズタにした」
『彩愛を見れば分かる』
「フフッ、それはそうだね」
彩愛は感情を隠せない子だからな。
本人は相当頑張って隠そうとしてるみたいだけど。
『何故そんな事をしたんだ?』
「………」
俺はもう…彩愛への想いは全て捨てる。
決心するのには、相当な覚悟が要った。
「蓮二、余計な事はしないでくれないか?」
『余計な事?』
『蓮二先輩に言われたの…。精ちゃんは、私の事を一番に考えてくれてる、って』
「彩愛に…期待を持たすのはやめてくれ」
『…お前はそれで良いのか?』
「良いよ。だから…お願い」
蓮二は少し考え込む。
蓮二が考える時って…どれだけのスピードで脳は動いてるんだろうか。
計算は得意なのに、こう言う恋愛関係は苦手なんだな。
『分かった』
「うん…、ありがとう」
蓮二にお礼を言うと、俺は自分の教室に戻った。