35 -結局は…-
どんなに好きでも
叶わない恋ってのは必ず存在する。
それは分かってたけど――
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(side:切原)
『あ、赤也…』
しっかりと繋がれた彩愛と田中の手。
二人が付き合い始めたってのは、白井から聞いた。
「フンッ」
見てられなかった。
彩愛がアイツと居るところを。
俺は一度出た部室に、もう一度戻った。
『どうした、赤也?』
「柳先輩…俺、あんな奴に負けてるッスか…?」
『田中太郎か』
さすがは柳先輩、俺の顔を見ただけで分かっちまう。
田中太郎は、俺達男子の中でもダントツに悪い噂を持つ。
弱い奴には偉そうに、強い奴には従順に。
とにかくダセェ奴ってことには間違いない。
そんな奴に…俺は…負けた…。
「バカ彩愛…」
俺はアイツに告白した。
でも、答えはいつも“精ちゃんが好きだから”。
田中も彩愛に告白した。
それでオッケー?
ふざけんじゃねぇよ!
やっぱり結局は…俺以外だったら誰だって良かったんじゃねぇかよ。
『まさか、彩愛が本当に田中太郎に惚れて付き合ったと思っているのなら、お前の方が余程のバカだ、赤也』
「お、俺が…バカ…」
こんな時にまで、柳先輩は俺に優しくない。
俺の周りは、優しくない先輩ばっかだ。
「まさか、さすがの俺でも思ってないッスよ」
さすがの俺って…自分で言っててなんか寂しくなって来たぜ。
「だからバカ彩愛なんッスよ」
分かってる、部長を忘れる為に付き合ってるんだろうってことくらい。
でも、なんで田中なんだよ。
なんで…俺じゃねぇんだよ…。
『“なんで俺じゃねぇんだよ”と、お前は思っているだろうが…』
「うぇっ…!?ななっ…なんで分かったんッスか!?」
『顔がそう言っている』
こ、この人…マジで怖ぇええ…。
ぜってー柳先輩だけには嘘つかないでおこ…。
『きっと、俺達ではいけない理由があったのだろう』
「それって………」
あれ…?
ちょっと待て。
今なんつった?
『なんだ?』
「俺………たち?」
俺達って…もしかして柳先輩も俺と同じこと思ってるってことか…?
いっ、いやいやいや…まさか柳先輩が彩愛のこと好きだなんてそんな…。
有り得る話、か…――?
「柳先輩、まさか彩愛のこと……………
あれ?」
いない…逃げられた。
『赤也』
柳先輩が居なくなった代わりに、部長が現れた。
何とも言えない三強のオーラが漂っている…。
『最近集中が足りないんじゃないか?』
「…スイマセン」
いつか注意されるとは思ってたけど、このタイミングなのね。
「でも、このままで良いんッスか?」
周りはいつも彩愛の悪口。
彩愛が居ても居なくても関係ねぇ。
どんどん状況は悪化していく。
そんな中で集中出来るわけねぇだろ…。
『どんな環境でも、言い訳は出来ない』
「そうッスけど…部長は、俺達よりも彩愛のこと、長く見てきたんじゃないんッスか?」
『見てきたよ』
「なら、彩愛は何も悪くないってわかるでしょ?何で信じてあげないんッスか?」
悪いのは彩愛じゃねぇ。
全ては牧原先輩…あの人が入ってきてから…。
「そうだ!牧原先輩を辞めさせれば、そしたらテニス部は元通りに」
『
赤也』
幸村部長は、静かに俺を見つめる。
いや、見つめるなんて可愛らしいモンじゃねぇ。
有無を言わさず黙らせてしまうような、この瞳――。
『部長は俺だ。部内の事は、俺が決める』
「……ッ…」
悔しかったけど、でも…何となく感じてしまった。
この人…ホントは牧原先輩の正体を知ってんじゃねぇのか…?
「
部長!」
柳先輩は言った。
部長と牧原先輩が付き合ってるのは、部長自身の意思じゃねぇって。
だったら…
「教えてくださいよ。アンタなんで…牧原先輩なんかと付き合って…」
『…好きだからだよ』
「
嘘だ!正直に言ってくれよ。アンタのせいで、彩愛はずっと苦しんでんだよ…!」
部長と彩愛がくっつくのは、ハッキリ言って辛い。
でも…他の男を利用して、部長を忘れようと必死な彩愛を見てる方が
ずっとずっとツレェんだよ…――
『そこまで彩愛を好きなら…』
部長は相変わらずの冷静な目で、俺を見る。
『彩愛の事は、君に任せるよ』
「…え?」
それだけ言って、部長は俺に笑みを見せた。
いつも通り余裕のある顔をしてるけど…
でも…
なんでこの人は…
こんなに悲しそうな顔をしてるのだろう…――?