36 -愚かな行動-




恋人が好きか好きじゃないか


そんな事は私にとって


どうでも良いこと…――




















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(side:彩愛)

















『フンッ』



赤也…。


きっと赤也も、私には呆れてるだろうな…。

何だよあんな奴、って…思ってるよね。


赤也の告白は断ったのに、田中くんの告白は受け入れてしまった。





『俺、お前が泣いてるとなんかツレェんだよ』


『俺がずっと側に居てやるから…お前はずっと笑ってろよ』


『お前が望むなら、別れる』






ごめん赤也……ごめんなさい…。


あんなに私のこと想ってくれてたのに、最悪の形で裏切った。











『――…ちゃん、彩愛ちゃん!』

「えっ…!」



気が付けば、教室にはほとんど人が居なかった。

少しばかり寝てたみたい…。



『彩愛ちゃん。私、先に部活いっとくね!』

「あ…うん、起こしてくれてありがと!」



教室から私が寝ているのが見えたのか…梨華ちゃんは私を起こすと、急ぎ足で部室に向かった。

早いもので、もう放課後だ。

何だか今日一日、赤也のことばっかり考えてた気がする。



『バカ彩愛、ちょっと面貸しんしゃい』

「まっ…雅治先輩…!」



と、蓮二先輩。

このコンビに呼び出されると、ろくな事がない気がするけど…。

まぁ、一応は先輩の呼び出し。


断るわけにはいかない…か。





「わざわざ教室までお出迎えですか…」

『座りんしゃい』



と、促されたので、自分の席に座る。

続いて雅治先輩、蓮二先輩も、席に座る。

まるで自分の教室のように、支配してますよ…。

一応ここ、後輩の教室ですよ。



『彩愛、田中とは別れた方がええ』

「え…?」



いきなり何を言うか、この人は…。

“単刀直入に言うけど”ぐらいの前置きは出来ないもの?



「なんで…そう思うんですか?」



精ちゃんと言い、梨華ちゃんと言い…田中くんとの付き合いを良く思ってくれる人に出会わない。

少しは「オメデトウ」って言ってくれる人が居ても良いんじゃない?

って、別に祝って欲しいわけでもないんだけど。



男のカンじゃ

「…それ男って言うか、雅治先輩のカンですよね」

『そうとも言うかのぅ』

そうとしか言いません



私は、田中くんが好きだから付き合ったわけじゃない。

精ちゃんを忘れる為に…。

田中くんには本当に申し訳ないけど、それでも良いって言ってくれたから…。


だから、付き合ったの。


彼を好きだとか、好きじゃないとか…関係ないの。






「私は…田中くんを利用してるだけなんです…」



正直にそう言うと、二人は少し驚いている様子だった。

けど、直ぐに真剣な目付きになった。



『ほぅ…。随分と悪女になったもんやのぅ』

「それは…分かってます。自分でも最低な女だって」



赤也のことは利用出来なかった。

でも、田中くんを平気で利用しようとしている。


本当に、最低…。





『なら、ええじゃろ』

「え…?」

『相手は彩愛の体が目当て、お前さんは幸村を忘れる為。利害は一致しとるのぅ』

「か…からだ…?」



い、いやいや…体なんて捧げられる筈ないよ!

初めては大好きな人とって、決めてるんだから!




『気付いてなかったんか?田中は性欲を満たす為に彩愛と付き合っとるんよ』



田中くんが…私の体目的で付き合ってる、なんて…。


まさか、ね…――。





『本気でお前さんのことが好きなんて、思っとるワケないじゃろ?エッチがしたいだけじゃ

『仁王、その表現は些か直接的過ぎではないか?』

『スマンナリ。…じゃが、このぐらい言わんと分からんからのぅ』




急に、田中くんと付き合ってることが怖くなった。


本当にそう思ってるかは分からない。


でも、男の子と付き合うって言うのは…そう言うことがあってもおかしくない、ってこと…。





『彩愛。トドメを刺すようで申し訳ないが…今回のお前の行動、愚かだと思っている』

「蓮二…先輩…」

『俺だけでは無い。お前の事を大切に思ってる者は皆、同じ思いだろう。“バカ彩愛”、と』







――分かってるよ…。


私のこの行動が、どれ程バカなのか…どれ程安易だったのか…。

田中くんと付き合う事で、精ちゃんや赤也…大切な人を失うなら…。







私は田中くんと別れる。











「…どうすれば良いか、分からなかったんです…」



ここまでハッキリ精ちゃんを諦めようと思ったのは初めてで。


でも、諦めようとすればするほど、精ちゃんへの想いは溢れる。




もう…いっぱいいっぱいで。






どうすれば良いか、



分からなかった…。












『無理に諦める必要などない』

「……へ?」

『ずっと想っていれば、いつかは叶うかも知れない。しかし、そこで諦めたら、一生精市に想いは届かない』

「蓮二先輩…」




蓮二先輩がこんなこと言うのって、珍しかった。

だからこそ、何だかその言葉がやけに…私の心に染み込んだ。




『なるほど…それが、参謀の答えかのぅ』

「え?」




雅治先輩は、軽く溜息を吐いた。



『彩愛…。下手に寄り道するんじゃなかよ。頑張りんしゃい』

「雅治先輩…、ありがとうございます!」




私…まだ…


精ちゃんを好きでいて、良いの――?


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