47 -突然の災難-
平和に暮らしていた。
そんな時に、俺は巻き込まれた――
Link.47 -突然の災難-
(side:跡部)
『ほんでなぁ、俺の恋人はテニスやって言うたら“忍足くんってどうせボールと男の子にしか興味ないんでしょ”って言いよるんや。どうせ?ボールと男の子にしか?お前は俺の何を理解しとるんやっちゅー話や。俺かてちゃんと女の子が好きや!』
何故だか知らねぇが、俺は忍足の愚痴を聞いていた。
これも部長であるお前の役割だとか何とか宣っていたが、忍足がボールと男にしか興味があろうがなかろうが、俺にはひとつも関係がない。
いや、男にしか興味がないのは困るが…。
「お前が変な言い回しするからだろーが。断る時はキッチリ断れ」
そして何だかんだ言って、コイツの相談を受けてやってる俺は…一体何だと言うのか。
『いやいや、何か空気がアレやったからな…オモロイこと咬ましてやりたかったんや』
「恋人はテニス…って、お前の傑作のギャグか?」
『…オモロないか…?』
「全くな」
さっさとこの資料を何とかして、部活に行かなきゃなんねぇってのに…俺は何をしているのか…。
生徒会室はお悩み相談所じゃねぇ。
『いや、でもな“忍足クン…好きです!”“ありがとう。でも、俺には恋人がおんねん…テニスって言うんやけどな”…って、この雰囲気やったらオモロイやろ!』
「アァン?知るか。じゃあその雰囲気じゃなかったって話だろ」
資料を横に移動した時、ポケットの携帯が暴れ出した。
取り出してみると
「柳…?」
見慣れない名前が表示されていた。
珍しいな、アイツが…。
「もしもし、俺だ」
【柳だ。突然の電話ですまない】
「構わねぇよ。久しぶりだな、柳」
【少し、相談をしたい。…今、良いか?】
なんだ、今日は。
俺はカウンセラーでも何でも無いが…とりあえず分かることは、忍足の面白くないギャグよりかは、柳の相談の方が重要ってことだ。
「良いぜ。どうした?」
【牧原…という名を知っているか?】
「牧原?あぁ、牧原グループか?」
【そうだ。その牧原なのだが…最近黒い噂が流れているらしい】
黒い噂…聞いたことがあるな。
あのちっせぇ企業が生き残るには、仕方ねぇことだろうがよ。
「その噂、恐らく本当みたいだな」
【何故、牧原はそのようなことを…】
「最近、あそこの親父がギャンブルにハマり始めたみたいでな。もうすぐ倒産の危機にあるらしい」
【倒産か。なるほど…】
「どうした?そいつがなんか関係あるのか?」
柳の口から牧原の名前が出てくるとは思いもしなかった。
そう言えばあそこの娘、氷帝に居た筈だが…いつの間にか消えてたな。
【実は今、牧原の娘が立海大に居る】
「アァン?本当か?」
ってことは、転校した…ってことか。
道理で最近見ねぇわけだ。
【ところで跡部。お前にはいとこが居たな】
「やっと彩愛が話したか」
【いや、彩愛は未だに隠している】
彩愛は“景ちゃんと居ると恥ずかしいから…”とか何とかほざいて俺との関係を隠したがる。
俺と居ると恥ずかしい?そんな光栄なことがあるものか。
「普段は可愛らしい奴なんだがな。どうもそこら辺は気に入らねぇ」
【彩愛は、お金持ちと知り合いであることを隠したいみたいだ】
「…何故だ?」
【それ目当てで近付いてくる者が多いのだろう】
一般庶民の考えは…理解出来ねぇな。
そう言うものなのか?
【今、テニス部で少し揉めていてな…それが確認したかっただけだ】
「揉めてる?何やってんだ、アァン?大会も近いだろーが」
【そうだ。だから、解決しておかねばならない】
「お前達とは正々堂々と戦いたいからな。何かあれば、俺様が手を貸してやらねぇこともないぜ」
【そうだな。その時は…お願いするとしよう】
立海テニス部で一体何があったってんだ?
久しぶりに可愛いいとこに連絡でもしてみるか…。
『跡部、雰囲気は俺のせいちゃうで』
「……さっさと部活に行け」
俺はそのまま、彩愛に電話をした。
【………はい……】
「彩愛か?」
【景ちゃん…どうして?】
「最近会ってねぇからよ。元気にしてるか?」
と、聞いてみたは良いが…明らかに元気、と言った声ではない。
揉めてる原因は彩愛か?
【あぁ…うん。ちょっと疲れてるけど、元気だよ】
「そうか…。叔母さんは?元気か?」
【お母さん?お母さん…うん、相変わらず…元気で…口うるさくて…】
なんだ…?
会話が途切れ途切れになる。
電波が悪い、ってわけでもない…それより気になるのは、彩愛が鼻を啜る音…。
「じゃあ…叔父さんは?」
【お父さん……家族の為に…働いて…頑張って、くれてる………】
「…どうした?何かあったのか?」
【景ちゃん……恋って、難しいね…】
「アァン?」
お前も相談か…。
まさか幸村に告白して、“恋人はテニスだから”………んなわけねぇか。
「幸村と何かあったのか?」
【精ちゃん……私のこと、好きだったんだって……】
「…良かったじゃねぇか。晴れてカップルになれてよ」
【カップル…なんて…なれない……私……】
「なれない…?」
世の中ワケの分からねぇ奴らばっかだ。
好きな奴に告白されて、カップルにならない?
なんだ、その発想は…。
恋人がテニスよりもワケが分からねぇ…。
【景ちゃん……可愛がってくれて、ありがと……】
「…何だ?いきなり」
【じゃあね……バイバイ……】
「待て…バイバイって…どう言う…」
プツッ――…プープープー……