49 -氷帝学園-
俺達は君を守る為に
今、一丸になる――
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(side:幸村)
『跡部なら立海に向かった筈だぜ。会わなかったのか?』
「立海に?」
参ったな、すれ違いか…。
何故立海に…と言うのはこの際おいといて。
跡部が神奈川に居るとしたら、こっちに帰って来るのは恐らく…
『まぁでも、ヘリで行ったみてーだから、すぐ帰って来るんじゃねぇの?』
「…ヘリ?」
相変わらず派手な奴だ。
でも、今回ばかりはありがたい。
『
うわっ!立海のビッグ3が氷帝に来てるぜ!?』
『
大会前だぞ!?まさか堂々と偵察に…』
『
オルァ、黙れお前ら!サボってんじゃねーぞ!!』
『は、はいぃ…!!』
そうだった、もう大会前だったな。
あまり目立たない方が良さそうだ…。
『急に押し掛けてすまないな』
『ま、アイツらの刺激になって良いんじゃねぇの?』
少し…懐かしい気分になった。
団結したこの空気、目標に向かって突き進む…真っ直ぐな目。
俺達が失ったもの…。
『精市、心配することはない』
「…分かってる」
取り戻す、必ず。
俺達の信念も、彩愛も…。
『……やっぱり、苦しんでたんだね……精、ちゃん……』
彩愛…。
俺を助ける為に君が苦しんだら、意味がないだろ。
何の為にあの女を見張っていたと思ってるんだ。
「牧原に何か言われたのか?」
『……やめて……違う…から……』
絶対に牧原が原因だ。
例え彩愛が否定していても。
それ以外考えられない。
『お、帰ってきたみたいだな』
真っ青な空に浮かぶ、ひとつのヘリコプター。
風が、俺達の髪を揺らした。
『幸村、柳…久しぶりだな』
「跡部」
相変わらずのオーラを放って登場したこの男が、彩愛のいとこ。
…少しで良いから彩愛にそのオーラを分けてあげれば良いのに。
『時間がない、車を用意した。乗れ』
嫌な予感がした。
一瞬でも、最悪の結末を想像してしまったことに。
「………」
病気を患ってから、最悪の事態を考えてしまう事が多くなった気がする。
それは、何よりも俺が恐れていること。
いつでも現実と隣り合わせに待ち合わせる、地獄。
あの時だって…。
『幸村』
跡部の目は俺に向けられていた。
何かを訴えるような瞳…。
『部外者の俺が突っ込むことじゃねぇが…お前ら二人とも、間違った愛し方をしているようだな』
「え…?」
『お互い好き同士なのに、何故傷付け合う?』
「………」
跡部の問いに、答えることが出来なかった。
全て、彩愛を守る為だと思っていた。
でも結局…俺は彩愛を守れていない。
自分の不甲斐なさに、心底嫌気がさす。
『そこを右だ』
跡部が運転手に指示を出すと、車は大きく右に曲がった。
『場所の目星は付いているのか?』
『ああ、どうやら氷帝の生徒らしいぜ』
『氷帝の…?』
『まぁ、買収したのはそいつの親らしいがな』
買収…か。
本当に人を物みたいに扱うんだな。
それが大人の世界、ってわけか。
『あと5分弱で着く筈だ。着いたらすぐに突入だ、いいな?』
『そんな無計画に行動しても良いのか?』
『いや、逆に考えてる暇はねぇ。少しでも早く行動しないと彩愛が危ない』
彩愛…頼む、無事でいて。
『やはり牧原なのか?』
『ああ、間違いない。ちゃんと本人が証拠を残してくれてたみたいだぜ』
「証拠…?」
『ほらよ』
何やら録音機器のようなものを渡された。
「これは…」
『牧原と彩愛の会話だ。お前にとっちゃ聞きたくねぇものかもしれねーな』
そう言われると、再生ボタンを押すのを戸惑った。
けど…聞かないわけにもいかない。
俺は親指に、全神経を集めた――。